短編、番外編
□誕生日
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「はい」
「……えっと?」
「後ろ向いて」
「え、え……あ。はい」
目の前に差し出されたシンプルなネックレスにどうしていいのか分からずに、ネックレスと烏哭様の顔を交互に見た。
そうしているうちに後を向くように指示をされあっという間に首にネックレスを付けられた。
「あの、これは…」
「あれ、忘れちゃったの?」
「何かありましたか?」
気紛れにプレゼントを渡されたのかと思っていたが、どうやら今日は何かあったらしい。
記憶を巡らせてみたが、私が思い当たるような記念日やらは何にも思い付かず、更には私がプレゼントを貰うのもよくわからなかったので、首を傾げながら烏哭さんを見上げた。
「うん、よく似合ってるね」
「はぁ…。ありがとうございます」
「ボクにはもったいないくらいのプレゼントだよ」
「………?はい?」
意図が読めない烏哭様の言動に、先程から頭上に疑問符を浮かべることしか出来なかった。
「ネックレスにはね『愛情』とか『誓約』って意味もあるけどそれと同時に『束縛』と『独り占め』の象徴なんだって。俺らしいでしょ」
「……ッ!……」
そこで素直に肯定の返事をすると自惚れていると思われそうで、でも明確に愛情を口にしてくれたことがない烏哭さんからの言葉に少なからず顔を紅くした。
なし崩し的に身体の関係を持ってしまって、でもまさか私だけだと思っていたのに……
「誕生日プレゼント。要らないって言うなら、少し早い俺への誕生日プレゼントって事で君のことちょうだい?」
「誕生日、プレゼント?」
その言葉でハットして寝台脇のデジタル時計を勢い良く掴んだ。
そこには紛うこと無き私の生誕である日付が刻まれていたのだった。
「あ、私……自分の誕生日忘れてました。はは…。」
「他人の誕生日とか記念日は無駄に覚えてるのに、ほーんと自分の事には無頓着だよね」
烏哭さんの誕生日は勿論大切な人の誕生日なので盛大に祝った。
本当は紅孩児達や黄博士も呼びたかったのだが……ニィ博士はいいかもしれないが、烏哭様はどうだろうか、とふと考えてしまった。
そして大勢で祝えない代わりに、料理とか頑張ったんだっけか。
烏哭様が卵アレルギーだからケーキは焼けなかったけれど。
「何考えてたの?」
「烏哭様のことです」
「君、本当に俺のこと好きだよね」
「烏哭様も、なんですよね?」
改めて愛の言葉を囁き合わないのがなんとも私達らしくて笑いが出てくる。
首輪の様に着けられたネックレスを指でなぞると、それだけで嬉しさが顔に出てしまうのだから、女と言うのは単純である。
目に見えた束縛を好むなんて…
「もう一個、欲しいモノがあるんです」
「なーに?」
ネクタイを緩めながら寝台に腰掛けた烏哭様の横に所謂あひる座りと呼ばれる座り方で座った。
「烏哭様が……欲しいです」
「欲張りだね」
今しがた彼に着けて貰ったばかりのネックレスを掴んで引き寄せ、唇を合わせるだけの軽いフレンチキスをした。
彼には到底似合わない可愛らしい口付け。だか、今までのどんなキスよりも愛を感じれた。
「本当に名無しさんのこと貰っちゃうからね」
「はい」
あなたも大概欲張りだ。
だって、私は貴方にもう捧げる所がないくらい全てを捧げてるのだから…。
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あとがき