短編、番外編

□第二夜
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「いらっしゃい、烏哭様」


金山寺に来る目的以外、ここに来る用がなかった僕が珍しく人里に降りていた。
それも若い女の子が好きそうなお菓子の手土産を持って。


「久しぶり〜。元気にしてた?」

「はい!この間光明様が息子さんを連れて来たんです」

「江流クンだっけか?」

「まだ小さいのにしっかりした子です。私、家庭教師頼まれてしまって……」


家庭教師?そう言えば美樹は町外れの孤児院に勉強を教えに行っていると聞いた。
なんでも本人が孤児院育ちらしく、そういう子達を放っておけないとか。

そんな彼女の優しさに付け込んだ光明も光明だ。江流クンを使って彼女を定期的に寺院に呼び出す何て……


「全く光明らしいじゃない」

「あ!烏哭様…せっかく来て頂いたのに申し訳ないのですが……」



―――――――



「こんにちは」

「や!来ちゃった」


あからさま過ぎるくらいに僕にだけ嫌悪感ある表情を向けた親子に苦笑を漏らす。

息子に至っては竹箒片手に彼女と僕の間に割って入った。


「何しに来たんですか?」

「僕、歓迎されてない?」

「少なくとも、江流は無意識に敵視してますけどね」


二人で腰掛けた縁側から見える所で、照れた表情を見せながら勉強を教わる彼の息子を一瞬だけ見た。

あぁ、ライバルはここにもいた訳か。父親に似たのか女の趣味だけは良いらしい。

が、この子供に渡すつもりは僕どころか父親さえ毛頭ないだろう。


「明日の祭りはどうなさいますか」

「どうって?」

「三人でまわりましょうか」

「三人って……まさかアンタも行くつもり?」

「えぇ。公平を期す為に」


どこまでも食えない男だ。


「光明、アンタだけは敵に回したくなかったよ」

「喧嘩ですか?」


勉強を終えたのか、こちらに歩いてきた彼女は何故か会話の最後だけを聞いてしまったようで僕らが喧嘩をしたと勘違いしたらしい。


「喧嘩は多分ダメだと思うんですけど、喧嘩をするほど中がいいと言う言葉もありますし、必ずしもダメと決まっている訳ではないと思うんです。でも……」

「でも?」


そこで言葉を区切って徐ろに光明の左手と、僕の右手を自分の両手で包み込んだ。


「私は仲良しのお二人が見ていたいです」


完全に負けた。
二人で顔を見合わせて声をあげて笑っていると、きょとんと固まってしまった。


「では、明日のお祭りは三人で行きますか?」

「仲いい僕等が見たいんでしょ?」

「え、えぇ!?」


僕らの手を包み込んだ両手を、今度は僕らが握り返した。
そうすると途端に頬を赤く染めて下を向いた。


「…あの、はい。お祭り……一緒に行かせて下さい。」


まだ、急ぐ必要はない。

今は三人でいいのだ。



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