短編、番外編

□第三夜【下】
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祭りも終盤に差し掛かって来たところ、結局光明様は江流くんに捕まってしまい、僧正さんやお弟子さん達に連れられてしまった。


「……」

「……」


時刻は夕方の六時。秋の空は既に暗く、いつぞやの出会いを思い出させる様だった。


「烏哭様?」


直に横にいると思っていた烏哭様がいなくなっていたのだ。
歩みを止め、辺りをキョロキョロと見回して見たものの、こうも人が多いのでは見付かる者も見付からない。それに人並みに埋もれてしまい、先程はぐれたと気が付いた場所から大分流されたと思う。


「……いない…」


少し遠回りになってしまうこと前提で祭りの中心からずれた街外れを歩いた。
あの万年桜の場所に行けば烏哭様もいるかもしれない。

淡い期待を込めて足早に向かったのだ。


「はぁ…いたっ!」


遠目でも分かる煙草の火。

いや、煙草の火以外は真っ暗で見えなかった。ただ、そこにいる"気がした"のだ。

それと同時に危うさを感じた。

せっかく綺麗に結ってもらった髪が乱れるのも気にせず走った。
手にしていたぽっぽ焼きも、金魚が入っていた袋も落としてしまっただろう。

それでも走った。走って……


「……捕まった」

「いなくならないで下さい……」


闇に溶けてしまいそうな危うい漆黒の彼を後から抱き締めた。
私が目を離せばいつも何処かへいなくなり、私が手を離せば闇夜に紛れてしまう。

彼は私を試すのだ。

私が貴方を見つけ出せるのか。

迷っている私が、どっちを選ぶのか……


「じゃぁ、俺にする?」

「……」

「俺はキミが一番怖いよ」


自分でも分かるくらい私は残酷だった。

選べないんじゃない。

選ばないのだ。


今のこの温かい日常が壊れるのが怖い、と言うのを口実に喜劇のヒロインに浸っているのかもしれない。

私と二人きりの時だけに口にする一人称が今は重荷でしかなかった。


「……」


一瞬だけ姿を見せた月が、再び雲間に隠れてしまった。






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