HQ!夢小説

□天才ではない君へ
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─及川徹は天才ではない。

そう言われた彼はどういう気分だろうか。実際に北一時代の後輩影山飛雄にはかなわなかった。彼は紛れもない天才だった。天才影山とは違い及川は努力によって力を得た人間だ。もっとも恵まれた体格と運動神経においては元からなのだけれど。あとは...そう、顔。あの整った顔もだろう。小学生の時から整った顔のおかげで随分と女子からモテた。幼馴染みである私としては大変であった。及川くんに近寄らないで!だのあんたがいるから及川くんは彼女作れないんだよ!だの。呼び出しといて勝手な話だ。ほら、今だってそう彼女たちは。

「及川くんから離れてよ」
「は」
「及川くんの彼女でもないくせにまとわりつくなって言ってんの!」
「はぁ...」
「聞いてんの!?」

聞いてる聞いてる。充分くらいにうざいほど聞こえてる。及川と岩泉と行動している私は及川ファンからよくこういった類の呼び出しをよくされる。呼び出しなら告白とかの方が正直嬉しい。毎度毎度呼び出されて及川についてタラタラと怒られるこっちの気持ちにもなって欲しい。めんどくさいの一言である。そうヒステリックになりなさんなお嬢さん、と宥めれば煽るだけなのはわかっているのでてきとうに返事をする。高校に入ってもう半年経つが既に片手で数えられる以上の回数になってるのではないだろうか。もうそろそろやめてほしい。何度もいうがめんどうなのだ。こうやって回想してる間もずっと「あんたは及川くんに釣り合わない」「媚売るな」だのなんだの言われ続けている。

「ねぇ」
「なによ!!!!!」
「こんな体育館裏のトイレで説教して楽しい?そんなことしてる暇あったら及川に媚売ってきなよ。めんどくさい。早く教室に戻りたいんだけど。」
「ふざけてんの!?」

びしゃ。そう音をつけたらいいだろうか。ご丁寧に用意していたらしいバケツの水をかけられる。頭からつま先まで水浸しだ。シャワー浴びなくてよくなったかな、なんて。ふざけんなっての。ダメだダメだこういう時こそ笑顔じゃないと。

「...もう気は済んだかな。じゃあ、これだけは言わせてもらうね。」

なによ、と少し怖気付いたような彼女たちに言う。一度軽く息を吸って

「わたしが及川のこと好きじゃないなんて付き合ってないなんて誰が言ったの?.....ねぇ、徹」

彼女たちの背後、トイレの入口には愛しき幼馴染みである及川徹が汗だくで肩で息をしながら立っていた。うん、上出来。いいタイミングだよ。よく探し出してくれました。
突然の及川登場について行けてない彼女たちの隙間を通り及川の元へといく。

「すこし遅いんじゃないの?」
「あのねぇ、トイレって言われても校内にたくさんあるんだから見つけ出しただけでも上出来だと思って欲しいな。」
「そうだね上出来上出来」

呆気にとられた彼女たちを前になんて和やかな会話だろうか。見つけてもらえたことが嬉しくて小さく笑っていると濡れた髪を軽くすかれてそのまま引き寄せ抱きしめられる。

「君たちね、僕に好意をよせてくれるのは嬉しいんだけど、彼女に手を出すのはめてくれるかな。これ以上やったらさすがの僕も容赦しないよ。何しでかすかわからないからサ。」

ヒッと軽い悲鳴のような声を背中に受けながら腕をとられ二人で歩き出した。あぁいい気味いい気味。大好きである人にあんなこと言われたら相当ショック受けるだろう。これでやめてくれたら嬉しいけれど。ちらりと徹をみると軽く機嫌悪そうなぶすくれたような顔をしていて笑いがでた。

「笑わないでよ、これは重要な問題だよ。次から呼び出されたらちゃんと僕を呼ぶこと。いい?わかった??」

心配症。まぁそんなところも好きなんだけど。私は大して重要な問題だと思ってない。なぜならば。

「徹はどこにいたって私を探し出して助けに来てくれるでしょ?」

華奈には適わないなァ、なんてため息が混ざりつつだけど嬉しそうな声。そんな声をされるとこっちまで伝染してしまうじゃないか。嬉しいからお礼も込めて後で不意打ちでキスでもしてやろう。天才ではない君が私のことを好きでいてくれるように。

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