HQ!夢小説

□願うのならば
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―彼女と2人きりの世界
なんて美しい世界だろうか。
綺麗に手入れされた水槽を見ながら柄にもなく考える。アクアリウムというのだろうか。この水槽には流木や水草が見られるために置かれ、その中に見られるために綺麗な熱帯魚たちが泳いでいた。

「ねぇ聞いてる?」
「あ、あぁ何?」

もう、と少し拗ねながらいう彼女にごめんごめんと謝る。彼女の家に置かれた水槽はまるで澤村自身の心を映している様に思えた。

「アクアリウム、綺麗でしょう?」

そう自慢げに彼女は言い、自分が作ったのだとまたも自慢げに言った。美しい熱帯魚を閉じ込める有限ある水槽。美しさの中に残酷さを持ち合わせながらも、そんなことは優雅に泳ぐ彼らにはそれがわからない。自己満足のために自分たちは閉じ込められ狭い世界の中で死んでいくのだと知ればどう思うだろうか?と頭の端で考えながら楽しそうにアクアリウムについての説明をする彼女を見つめる。

「自分の作った世界しか知らない、っていうのはなんかいいかもしれないな。」

ボソッと洩らした感想に彼女は嬉しそうに答えた。

「私の作った世界でこの子達は生きてるの。それって酷く残酷で綺麗でしょう」

驚いた。彼女まで自分と同じ考えをしていたとは。あえて応えずにまた水槽を見つめる。幼馴染みとしてずっと一緒にいてその延長で付き合っているような関係。不思議な雰囲気をまとう美しい彼女は男からの人気は高い。昔から共に生活しているから少なくとも他の人間よりは彼女の思考や行動を理解できていると思う。それだけでも充分に特別であるだろうがやはり彼女の全てになりたいと思うのはおかしいことなのだろうか。澤村という世界しか知らない彼女。なんて素敵。

「あぁ、いいな。」

行き過ぎた思考を戻す。今日はどうかしているらしい。こんなことを考えるなんてしらしくない、と自らを戒める。彼女に知られたら笑われるだろう。

「残酷であるけれど逆に幸福でもあるの」「この子達は閉じ込められてこの中で死んでいくのだけれど敵はいないし餓死することもない」「水槽に縛る代わりに確実な生を与えてる」「まるで、そう、あなたに守られるわたしのようね」

そう言って酷く美しく微笑んだ彼女。階段を上り自室に向かったであろう彼女を追いかけながら彼女なりの愛情表現にそっと笑みをこぼした。



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