悲しみの先にあるもの

□勉強会
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俺が、『楯山文乃』に声をかけられてから、数日がたった。

相談というのは勉強のことだった。

アヤノの悩みは、親が教師で勉強にすごく熱心らしい。だから成績にはうるさいらしい。が、アヤノはとても…頭が悪い。
だから俺に頼んだという事だ。
俺に教えてもらったほうがわかりやすいらしい。
まぁ別に嫌でも何でもないし、難しいことではないから引き受けた。
そして夏休みが始まるというここ数日からふたりきりの勉強会がスタートしていた。
驚くほど理解が難しく、話せば話すほど分からないことばかりがふえていった。考えようとしないところが駄目だ。

「ねぇ、シンタロー。そろそろ休憩にしない?疲れたよー」

「今始めたばっかだろ。音を上げるのが早すぎだ。…シンタローって呼ぶな。何回言ったらいいんだ」

ちぇー、とぶーぶー文句を続ける。

「あのなぁ…お前の勉強に付き合ってやってるのはどっちだと思ってるんだ。」

そう言うと崩していた背をまっすぐに伸ばし、さっきの言葉を即刻訂正し、再びペンを握る。



「ねぇ、次のテストで50点とったら、一緒にどっか出かけてくれる?」

「…は」

こいつは何を言っている?
言葉が理解できない。

「お前なんて」
「だからでかけようって」

即答で返され、戸惑う。

意味がわからない。
なにがしたいんだ?

「まぁ決めたことだし、決定ね。じゃ、また明日!楽しみだねー!


と言い残し、部屋を出て行こうとする。

「ちょ、ちょっと待て!俺はまだ何も…!」

「え…?」

悲しそうな目で俺を見つめる。
ここで俺の心は簡単におれた。
もう諦めた。
まぁよくかんがえればこいつも何か目標があれば勉強するんじゃないか?と思い、許してしまった。

「あー…もういいよ。好きにしてくれ。でもその代わり頑張れよ。俺が教えたのに赤点とか…許さないから、」

俺がそう言うと、アヤノ嬉しそうに、うん!と返事をした。

「じゃあ私帰るね、じゃーね!」

と言い、家を出て行った。
今日はあまり勉強してないが、まぁいいか。明日もあるんだし。

階段を登っていると、妹のモモが階段を降りるときにすれ違った。

「あ…お兄ちゃん、随分と嬉しそうだけど…何かあったの?」

しまった…つい、顔に出ていた…!?
「は、おお前何言って」

するとモモは直後にニヤつき、続けた。 
「あ〜わかったぁ。あの人お兄ちゃんの彼女さんでしょ〜?」

心臓がドクンと高鳴る。

「何いってんだ!なわけ無いだろ!早く降りろよ!!」

怒りが混じった口調で怒鳴り、妹は焦りながら階段を降りてった。

そんなことあるはずがないだろ…。
なにいってんだあいつは。


俺は、少し楽しみにしているかもしれない。
そう言えば楽しみなことがあるというのは久しぶりなような気がする。

なので俺は、もうちょっと丁寧に勉強を教えよう。なんて考えたんだ。

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