be at sea

□02
1ページ/7ページ



 終業時間は18時。今日は少しだけ残業して18時45分にタイムカードをきった。まあいつもと何ら変わらない月曜日。

 人の波に飲まれながら、すっかり乗り慣れた電車に乗って三駅ほど揺られたら、こちらもまた見慣れた景色が広がる我が社宅の最寄り駅。

 何となく直帰する気分でなく、かといって外で一人ご飯、という感じでもない。無駄遣いできる身ではないが、食べ物に関しては財布の紐がゆるんでしまう。

 ふらふらっと、帰宅途中にあるコンビニでアイスを買おうと思い、欲求に従うままに足を向けた。

 サラリーマンらしき人、学生、様々な人達が行き交う駅横のロータリー。そこを抜けたら青白い光を放つ、行き慣れたコンビニが目に入ってきた。慣れてるというか行きつけというか。コンビニといえば必ずここ、というくらい引っ越してきてからの利用頻度が高いわけだが、そこに真っ黒い人影を見つけて少しだけ足の動きが鈍った。

 電車の利用者が多い時間帯だ。完全に足を止めることはできない。

 真っ黒い格好をした人は他にもいるのかもしれないが、離れた所から見ても「ああ、間違いなくそうだ」と確信している私がいる。

 コンビニの出入り口の横に設けられた喫煙所に彼らはいた。

 そう、一人ではなく二人である。

 一人は前日に再会したばかりの佐々木さんその人である。今日は例の彼にコンビニに「行け」とか「来い」等と脅されたわけではない。
  偶然か必然かはこの際置いといて、この前まで完全に他人と化していた人物と近所のコンビニで出会うって凄い確率だと思う。

 それとも、連れてこられたのだろうか。今まさに私をじいっと見つめている彼に。どんな手段を用いたかは想像つかないけれども。

 まあなんだ。はっきり言って怖い。

(だから、すうっとこちらに近付いてくるの、やめて。言われなくてもそっちに行くから!)

 お互いに何も言わず、視線でのやり取りとなる。ただ私の視線は彼を通過してしまうので、気をつけないと無関係の通行人を睨む形になってしまう。これまた厄介である。

 甘いものを欲した己の胃を恨むべきなのか。

 こんな人通りが多い場所で多々良を踏んでいるのは迷惑だと思い、予定通りというか本当は避けて通りたいのだけれどそれは許されなさそうなので、だいぶ落ち込んだテンションを引っ提げ、重さを増した黒のパンプスを乱暴に踏み鳴らしながらコンビニに向かった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ