ローナミ置き場

□逃げたい男
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目の前に歩くは長い刀を肩にかけ、

フカフカのキャスケットを被った

私が逃げたい男…


スタスタと後ろを振り向かずに歩く

その背中を見ながら、少しずつ距離を

置いていく。


よし、これくらいなら大丈夫!


3mほど離れて歩く。

程よい安心感。


嫌いではないけれど、なぜか離れている

方が安心する。


これくらいの距離で見ている方がいいわ。


なんて、ぼんやり考え事しながら歩いて

いると、


「ねぇ、どこ行くの?」


不意に声をかけられる。


「…?」


スラリと背の高い、俗に言うイケメンの

男。

年齢は20代後半くらいかしら?


ナンパ?

トラ男君がいるのに?


離れて歩きすぎていて1人で歩いてると

思われたみたい。


「可愛いね、君。

モデルやったことある?」


「…モ…モデル?」


ちょっと、スカウト?!


「そう、スタイルいいし。

君、絶対イケるよ!」


そう?自分でもイケると思うわ。

なかなか、見る目あるわね。




「おい。」


低音のいかにも不機嫌な声。

いつの間にか3m離れていたはずの

トラ男君がスカウトマンの真後ろに

立っていた。






そう、ただならぬオーラを放って。



「…ひっ?!何だよ、彼氏いたのかよ?!」

「かっ、彼氏じゃないわ!!」


何故か、必死に否定してしまった。

余裕ないわ…私…



「この女にその手の仕事させてたら、

こいつの要求するギャラで破産だぞ…?」


トラ男君はニヤリと笑う。


…その手の仕事…?

何?!




「…わ、悪かったよ!」

スカウトマンらしき男はトラ男君の

迫力にかその言葉に怯えてか…


そそくさと逃げて行った。



男が去っていくと、


「…バカか…」

トラ男君はさっきよりさらに眉間のしわを

増やして、呆れたように呟く。


「バカとは何よ?!

私、モデルのスカウトされただけ

じゃない?!」


「だから、バカだと言ってるんだ。

あれは、モデルでもAVのスカウトだ。」


「!!!」


「ホイホイついていったら、お前、

脱がされてたぞ。バカ。」


「…う、うるさいっ!!」



そう言えば、手配書の写真も海軍に

まんまと撮られたんだったわ…。


バカ…確かにバカだし、脱がされたら

破産するほどギャラは要求するわ。


「もう、早く行くわよ!」


ばつが悪いのでスタスタを歩き出した。



何よ!?


私の事バカにして!


確かに、モデルって言われてちょっと

浮かれたし、さっきから何事もトラ男君の

思惑通りに事は進んでるけど…!


本当の私はこんなんじゃないんだから!!



苛々する。


いつも通りの自分でいられない事が。



歩き出すとすぐに私の右手がふわりと

軽くなり、温かい感触が手を包む。


見ると、タトゥーだらけの手が私の手を

握ってるのが目に入る。



「!!!!!


なっ、何で、手を握ってるのよ!??」


カッと、体中が熱くなる。

思わず振りほどこうとしたが、その瞬間に

手をぎゅっと握られて離れない。


「面倒くさいから手を繋いでやる。

こうすれば、声は掛けらないだろう。

また、スカウトだのナンパだのされると

時間の無駄だ。」


トラ男君はそう言うと、さらにぎゅっと

私の手を握りしめた。

ちょっと驚いて顔を見ると、そっぽを

向いていたので表情は見えなかったが

2つのピアスの光る耳は真っ赤に

なっていた。


「…

ふふふっ。


仕方ないわね。トラ男君のために手を

繋いであげるわ。」


こうやって手を繋いでいると、さっきまで

あんなに逃げたかったのに、今は心地いい。


…私どうにかしちゃってるわ。


逃げたかったり、傍に居たかったり。




無言で手を繋ぎ、目的地に向かう。


こういうのも悪くないかも。




「ねぇ、トラ男君。」


「あ?」


「私、嫌じゃないかも。」


「…!」


「あ、赤くなった。」


「黙れ。」






気付いちゃった。


自分の気持ち。




だから、もう、大丈夫。





後は、いつも通りの自分で…








Fin


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