拝啓、美しくも醜い貴女へ

□に。
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(数馬視点)


はじまりはいつだったっけなぁ。


「数馬先輩っ、」
「乱太郎、どうしたの?」
「喜三太が委員会中に怪我したそうです」
「すぐ連れてきて」

ばたばたと走っていく乱太郎。

あぁ、転んだら危ない。
伊作先輩も心配なさる、…訳ないか。

「ねぇねぇ伊作、ひめこ町に行きたいなっ」
「ご一緒させていただきますよ、天女様」
「やったぁ、ひめこ伊作のことだーいすき!」

あぁ、うるさい人。
黙ることができないのかなぁ。
ため息と共にごりごりと薬を煎じた。

そろそろ来るだろう。


「数馬先輩、喜三太連れてきました」
「…うん、ありがと」
「はにゃ…また迷惑かけちゃった…」
「ちゃんと作ちゃんに言ってきた?」
「はい」
「なら大丈夫。さ、治療するからね」
「ありがとうございますー」


「…はぁ…」

どうして、どうして。
どうして伊作先輩は行ってしまった?

まだ僕は未熟だ。
理解はしている。
伊作先輩がいない今、僕が保健委員で一番年上だ。

未熟だとか言ってられない。


「数馬」
「作ちゃん…」
「喜三太のこと、ありがとな」
「大丈夫だけど…」

藤内は会計委員の手伝いに行っていた。
作ちゃんは僕の隣にあぐらをかいて座る。

「…あ、作ちゃんの手…」
「んぁ?あぁ、これは古い傷だから大丈夫だ。痛くねえしな」
「駄目だよ、ちゃんと手当てしなくちゃ」
「悪いな、だけど俺に使うくらいなら一年たちを優先してほしい」
「…わかってる、けど…」
「な?すぐ治るって」
「……」

一年たちの方が、けがが絶えない。
だけど、僕にとっては一年だろうと二年だろうと三年だろうと治療をしたい。
大事な時に、なにか悪いことが起きないように。

「…食満先輩が帰ってくるまで、俺も頑張らないと」
「作ちゃん」
「…明日は壁の修理と…」
「作ちゃん、あのさ」
「……ん、あぁ…数馬?」
「…無茶は、厳禁だからね」
「おう、怪我しないようにするわ!おやすみ数馬」
「…おやすみ、作ちゃん」

藤内の分の布団も敷いて、寝る準備をした。

「…そういえば」


生物委員も大変そうだ、なんて思った。
まぁいいや、寝てしまおう。
これからも疲れる日々を送るんだから。


「…おやすみなさい…」

あのひとも目が覚めたら居なくなっていればいいのに。

そんなことを、ぼんやり思った。



に。

(はじまりを思い出すのすら億劫)



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