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□こたえ、探し。
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届いてた?
この想い、口には出来なかったけど。
(心に、届いていた?)
**
スメラギを迎えに行った刹那が戻った。
一人の、大きなオマケを連れて。
「刹那!どうしてあの男を連れてきたんだ!?」
端末に向かいもくもくと00の整備をする刹那の前に立ち、ティエリアは抗議する。
「ケルディムに乗ってもらうためだ。」
手を止め、顔をあげて答えた彼は穏やかだった。
激昂するティエリアとは違い。
「彼でなくてもよかったはずだ!兄弟とは言え、能力が同じとは限らないだろう?」
スナイパーとしての能力に長けていてパイロット特性のある人間なら他にもいる。
その上CBの考えに賛同する者だって。カタロンという反政府組織が作られるほどの世界なのだから。
「わかっている。」
「なら、なぜ!」
ぼつりと答えた刹那に苛立つ。
わかっているなら、なぜわざわざ、あのヒトと同じ姿形が必要なのか。
まくし立てるように真意を聞こうと唇を開いたが、それは刹那の小さな声に阻止された。
「不幸だと、思ったんだ。」
彼の苦しみが伝わるような声。
刹那の、あの頃の刹那の声だ。
眉をよせて、苦しそうな表情で絞り出されるそのオトは、4年前の少年の声だった。
先程まで自分が話していたのは成人した彼だったはずなのに、目の前にいる刹那はどういうわけか16歳の、あの頃のままの姿で僕の瞳に映っている。
なにをも信じない、神を否定しながらもガンダムに傾倒していた刹那・F・セイエイ、だ。
ありえないファンタジーのような光景。
もちろん感覚の問題であって、端から見れば刹那は青年の姿だろう事はわかっている。
ただ、あまりにもその声が、放つ言葉が視覚さえ犯す。
懐かしいような恐ろしいようなえもいわれぬ状況に、声をかけられず黙っていると再び幼い唇が動き出した。
「ライルの未来のために、変革を願ったロックオン・ストラトスが、その想いを知られずに死んで行った事が。」
それがひどく不幸だと、少年は言った。
「ば…かな。そんな事、君から伝えるだけで十分だろう!?」
その光景に背筋が冷たくなる。
恐怖を感じた自分を否定するため、大きな声をあげる。
自分もまた、ヒステリックなあの頃へ戻ってしまったようだ。
「だめだ。それだけでは、その重さは伝わらない。」
対照的な冷静さ。
刹那のなかに、一体何があるというのだろう。
震えをごまかすため、拳を握り腹に息を溜める。
「ライル・ディランディに、身をもって兄の想いの重さを知れと?」
「………。」
「…なんて事だ。」
はぁ、と重く溜息を吐いて眉間に手をあてる。
なんて事だ。
刹那は変わったと思っていた。
まわりのクルーを思いやり、明確な意思を持ち戦っているのだと。
少年だった彼の、真っ直ぐすぎるが故の痛々しさは鳴りを潜めたと思っていたのに。
「…君の世界は、あの人で出来ているのだな。」
ここまで病的に彼の想いを伝え貫き通したくなる程、彼が刹那の根幹になっていたなんて。
ティエリア自身も、ロックオンのおかげで今の自分になれたわけだが…。
「そういうわけじゃない。ただ…お互いにとって、不幸だと。」
息苦しさの余りまるで心臓をえぐり出してしまいそうな表情で、胸の服を握り締め呟かれた言葉は。
「愛していると、伝えぬまま、逝ってしまった事が。」
ティエリアの心臓すらもえぐる人間の不器用さそのものだった。
**
ずっと愛されていた事を知らぬままも。
ずっと愛していた事を知られぬままも。
お互いにとって、不幸すぎるから。
(ロックオン、どうして、逝ってしまった?)
俺の想いもまた、届かぬまま?
(愛していたのに。)
口にしていれば、俺を、置いていかなかったのだろうか。
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