1st
□クリスマスの魔法
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会いたいのに会えない。
そんな恋人なら、いらない。
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寒い冬は一人で過ごす時間を寂しい気持ちにさせる。
いつもならなんてことはないのに。
世の中がクリスマスだなんだって、家族や恋人達との想い出作りを推奨するのも多分いけない。
おかげで俺は今、携帯をにぎりしめ、とある男のナンバーを表示させている。
ぷちっと受話器のあがったボタンをおせばすぐに繋がる状態の画面。
でも、俺は険しい表情のままそれを押せないでいる。
(これを押せば、負けた感がある…)
もちろん、心配せずとも相手の反応は多分こんなものだろうが。
↓
『うっそぉぉ!まじ?刹那がっ…!刹那から俺に会いたいだなんてっ…!!行く行く行きます!わぁ、ごめん、もぅ鼻血がっ…!!刹那可愛い、嬉しい!すぐだから、待ってろよ!!』
確かに痛々しい程愛されてるのはわかってるから、『負けた感』はさほど感じなくてもいいのかもしれないが、やはりそれを自ら口にするのは立場が逆転するような気がして癪だ。
(…だが、しかし…。)
とにもかくにも今すぐにでも会いたいのだ。
好きだとか恋しいなんて気持ちより、この寒さをあの優しい笑顔で温めて欲しい。
(…仕方、ない。)
腹を括って、人差し指をターゲットである通話ボタンに差し向ける。
ぷちっ。
ぷるるる、ぷるるる♪
『もしもーし。お前から連絡くれるなんて珍しいなぁ。どーしたんだ?』
「う…いや…」
『ん?どーしたんだよ?』
いつもの調子で優しく問い掛けられているだけなのに心臓がばくばくする。
たった一言、『会いたい』と口に出す事がこんなにも勇気かいるだなんて。
(くそっ…!!)
ぎゅうっと握りこんだこぶしに力を込め、意を決して声を搾り出す。
「その…あの…会ぃた…『んぁ?刹那、なんだって?』
「だから、今日、お前に会い…『刹那、悪ぃ!ちょっと電波悪いみたいだ〜。もっとでかい声で言ってくんねーか?』
「…………っ!」
(なんだって俺がこんなにもやきもきして緊張しなきゃならないんだってゆーかロックオンお前察しろよいつもこまかい事に気がつくくせに肝心な時に役に立たないんだからシーズン的にわかるだろだいたい好きだなんだとか言うくせにこんな気持ちにさせるなへたれかばっ!)
『刹那ぁ?もしも〜し!』
人の気も知らず、盛大に間抜けな声を出すロックオンに俺の苛立ちは限界を越えてしまった。
「〜っ!!だ、からっ!!お前に会いたいって言ってるんだ!この馬鹿っ!!」
思い切り言い捨て、ロックオンの返事を聞かないよう携帯を切り床に投げ捨てる。
ぼたぼたと涙を流して、一人で顔を赤くして恥ずかしい言葉をさけんだ俺の姿はきっと滑稽で。
(こんな姿、あいつに見せたくないから、会いたいけど会いたくないっ!!)
ベッドに突っ伏し声を殺してあいつの顔を頭に浮かべる。
優しくほんわかした顔や、ちょっと悪そうな笑顔に真剣な表情も。
全部全部欲しいのに、どうしてうまく言えないんだろう。
(好きなのにっ…!どうして素直になれないんだっ!!)
素直になれないんだから、お前がもっと気付かってくれればうまく行くのに、なんて責任転嫁をしてじたばたとベッドで暴れてうさを晴らしていると部屋の角でしつこく携帯が鳴り響く。
「………。」
出れるわけもなく、振動するそれを凝視していたが急に音が止まった。
(あぁ…出れば、よかった…)
もう一度懇願出来る最後のチャンスだったのに。
そう思うとまた涙が零れてたまらなくなる。
少し気温が低くなったから。
だから人恋しくなって、お前に会いたくて涙が出るなんて。
どうして、俺はこんなにも弱くなってしまったんだろう?
「う〜っ!!馬鹿ロックオンっ!お前のせいだぁっ!」
「刹那っ!馬鹿はひどいぞぉ!」
「…えっ?」
枕に向かって叫んだ文句に、居ないはずの男が答えた。
「お前っ……なんで、ここに?」
後ろ手にドアを閉め、にっこり笑っているロックオンに驚き俺は涙を零したまま呆然と問う。
「ん〜、クリスマスの魔法?」
「馬鹿っ!だから、どうして??」
まさか今しがたの電話口での叫びを聞いて駆け付けたわけじゃないだろう。
だってオフ中の彼はたいていヨーロッパに居るはずだ。
(まさか…俺が会いたがってると感じて、向かってくれていた…?)
「あ…、ロックオン…。」
見透かされた恥ずかしさと、会えた喜びに俺の顔は真っ赤に染まり。
そんな俺の両の頬を包み込んで、にっこり微笑んだ男はもう一度言う。
「だから、さ。クリスマスの魔法だよ、刹那。」
そっと唇に触れるキスに、目を閉じて。
温かなプレゼントの背中に腕を回し、俺はクリスマスの使者に感謝するのだった。
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