2nd
□You are MINE.A
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かたかたかたかた。
夕食のトレイが手の震えを拾い、馬鹿馬鹿しい程振動している。
トレミーに来て数週間、こんなにも緊張して食堂内を歩いた事があっただろうか。
(いや、ない。絶対ない!!)
俺は目標を前方3メートルに捕捉。
ぴんぴん跳ねた髪の具合に似合わず、意外に上品にフォークを口に運ぶ刹那の姿を見つけ隣の席に着く。
「ロックオン。」
「隣、いいだろ?」
「あぁ。今日の調子はどうだった?」
「え?あ、あ、うん。やっとこさ命中率89%。なかなか兄さんみたいにいかないな。」
先日から一人で行っている射撃シュミレーションの結果を聞かれ、俺は焦って答える。
「兄弟と言うだけで、お前まで狙撃の名手だったら彼も立場がないだろう?」
「ははっ!だよな!いや、お前と話すと気が楽になるよ。」
慌てて早口になってしまったのじゃないかと気にしたが、刹那が少し口元を綻ばせたのを見て俺はほっと胸を撫で下ろし水を飲む。
(うーん…。みんなに対する態度と同じだよなぁ…。)
微笑んでこそいないが、リラックスした様子で俺と肩を並べている刹那。
パンをちぎり口に運ぶ刹那を横目で盗み見ると、薄目の唇が食事の温もりのおかげでいつもより赤みが強くつやがある。
(う〜ん……。)
フェルトへのキスに対し、嫉妬した刹那のこの唇に、俺の唇を奪われたなんて。
ちらりともう一度隣に目をやると、刹那は口端についたパンくずを小さな舌で舐めとった。
(う、あ!なんかやらしぃ…。)
正直言って彼にかなり興味がある。
だがそれは自重すべき感情だと理解しているし、今までの自分にそっちの経験はないのだから行動を起こすつもりは一切ない。
(やっぱ、この間の事は俺の夢か幻か、はたまた願望かっ?!)
余りに唐突で、余りに有り得ない行動。
何を隠そう、驚き倒してあの場に30分も放心状態でへたりこんでいたのはこの俺だ。
我に返っても、刹那との最初の会話はほとんど思い出せなかった。
(うーん、確かに触れたかどうかの微妙な接触だったと言えばそうかも…)
と言う事はやはり自分の勘違いか。
(勘違い、かな…。うん、そんなわけないよなっ!)
だって、現に刹那は他のクルーと同じように接してくるのだから。
顔を近付けられただけだったのだと言う事にしたら、俺の心はすっかり晴れたのだった。
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