2nd

□僕の居場所、君の影。
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「あ〜…と。刹那・F・セイエイ。」

かなり躊躇いがちに呼び止めたにも関わらず、青年は穏やかな表情で答えてくれる。


「どうした?ロックオン。」


ロックオン、というコードネームにまだくすぐったさを感じずにいられない。
真っ直ぐ見つめる刹那に気恥ずかしくなり、目を合わせられずに話し続ける。


「さっきのシュミレーションでの事で質問があるんだけど…」


「そうか。ではブリーフィングルームでモニターを見ながら説明しよう。」


他のマイスターより、何年も遅れてガンダムに乗る事になった自分。
こうして補習を求めてその遅れを取り戻そうとするたび、仲間たちは親切に付き合ってレクチャーしてくれる。


「…とゆうわけだ。解るか?」


自分は話す事が苦手だから上手く説明出来ているかわからない、と言う最年少の彼。

イアンやスメラギに聞いていた『無茶苦茶』な人物像より、遥かに柔らかな態度だ。


(気遣いも出来るし、表情も優しい…。大人になったって事か?)


「大丈夫。よく分かったよ。」

安心したのか、口許に少し笑みが浮かんだ。


(なんか、かわいらしいな。)


刹那の態度は、他のマイスターやクルー達に対するそれより、自分には特別優しいように感じる。


(優しいってゆうか、甘えてるってゆうか…)


歳相応の表情を見せてくれているように感じる。


「他に質問はないか?」


観察するように見ていたが、再び赤い瞳で真っ直ぐに見詰められ、目を反らしてしまう。


(なんだ?この感覚…)


刹那に見詰められると、特別な感情を抱かれているように感じる。


どうして?


(刹那・F・セイエイとニールには、何かがあった?)


黙ったまま見据えている俺に、刹那は少し怪訝な顔をしている。


「質問がなければ…」

「刹那。ロックオンに、も?」


「は?」


質問の意図が解らず、素っ頓狂な声を出した彼の為に言葉を続ける。


「ロックオンにも…いや、ニールにも、君は、その……こんな風に、笑顔を向けていた?」



こんなにも穏やかな優しい微笑みを、俺の片割れにも、向けていた?


同じ顔の、同じ遺伝子の、違う人間に。



唐突な質問に、刹那は一瞬目をぱちくりさせたが、穏やかに口を開く。


「いや……。そういえば、いつも邪険にしていたな。」


答えた刹那の微笑みは。


問い掛けた自分に向けられたものではなく。


(そう、か。)


残された彼に植え付けられた美化された記憶。


向けられる微笑みは、自分へ向けられたものではなく。


ここに立っているのは、本来自分ではないのだと。


「?どうした?」


マイスターの欠員補充として選ばれた自分が、特別に刹那と距離を取って来た理由が、今ようやく分かった。


彼を見つめると、自分も特別な感情を抱いていると、本能が察知したから。


(死者に勝つには、どうすればいい?)


腕を伸ばし、刹那の制服の胸元を掴む。


見開かれた赤い瞳が、急な行動に驚いたからではないとすぐにわかった。


「な、にを…」


「なんだろう、な?」


お前の瞳を揺らがせた理由も。


俺のこの衝動も。


「ほんと…何なんだろうな?」


小柄な体は、片手で簡単に引き寄せられる。


「教えて、くれ。」


赤い瞳に吸い込まれるように。


重なった唇は温かい。



(ニール。お前に勝つには、こうするしかない?)


肉体のないお前が、彼の心を繋いで離さないのなら。


心を繋げない俺は、彼を肉体で奪う。



(それしか、ないだろう?)

*END*********

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