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□エピソード・T。
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「ニール!」
「なに?ライ…うわぁっ!!」
子供部屋で宿題をしていたら、自分と同じ顔のライルが思い切り飛びかかって来た。
「ぅ〜…痛たた…ライル!急になんなんだよぉっ!!」
椅子から二人とも転げ落ち、床に後頭部を打ち付けたニールは涙目で抗議する。
しかし、負けじとライルはニールを再び押し倒し大声を上げる。
「お前、僕に隠し事してるだろ!?」
「なっ…なんの事だよっ?」
「隠したってダメなんだぞっ!僕たちはどこに居たって繋がってるんだから!」
そう。
ライルが運動会のかけっこで転んで膝を擦りむけば、ニールも大縄跳びで転んで膝を擦りむいたり。
違うクラスのニールが「ライルが熱がある」と急に授業を放り出し、辛いのを我慢している二つ隣のクラスの彼を保健室に連れて行ったり。
とにかく、互いに同じ事が起きたり相手の異変を感じる事が多いのだ。
無論、そういった類いの話は自分たちに限った特別な事ではない。
おそらく他の双子たちにも見られる傾向だろう。
「ニール。キス、しただろう!?」
しかしまさかそんな事まで分かってしまうなんて、と正直に青ざめるニールを見てライルは益々怒ってしまった。
「となり町の赤いリボンの女だろ!?ずるい!ずるいよっ!!」
ぽかぽかとパンチしながら涙を零すライルを見て、ニールはうろたえる。
「ライル、ごめん!公園で遊んでたら急にあの子がしてきたんだ。だから僕は別に好きでしたわけじゃなくて…その、ライルがあのコの事好きだったなんて知らなかったし…」
「誰があんなガキ好きなもんか!」
とうとうニールの上に馬乗りになってしまったライルは、まだ涙を零し続けて怒鳴る。
「だって、ずるいって…」
「あの女、ニールとキスするなんてずるい!!僕だってニールとキスしたい!!!」
「……へ?」
「だって、そぉだろぉ!?ニールは僕のもんだもん!」
「や、僕はライルの物ってわけじゃないだろ?それに、いつもほっぺにおやすみのキスだってしてるし…」
ライルの怒りの方向性が少し間違っている事に、若干戸惑いつつも苦笑いで反論する。
初恋の女の子のキスを奪ってしまったかと慌てたが、家族にちょっかいを出されて嫉妬しているだけらしい。
「そんなのは当たり前だろ!?僕は、ニールとくちびるにキスしたいって言ってるの!」
「…え…。くち、びる?」
僕らは家族だし、それに男の子だよ?
父さんと母さんは、夫婦だからくちびるにキスするけど、こどもたちにはほっぺやおでこにキスをするよ?
「…ライル。エイミーも?エイミーにもくちびるにキスしたい?」
倒されたまま上を見上げると、ライルの喉が丸見えだ。
腕を伸ばして触れようとしたら、その手を掴まれてしまった。
「そんなわけないだろ。エイミーは妹なんだから。」
「だって……」
言い終わらないうちに馬乗りだったライルが急に覆いかぶさり、掴んでいたニールの腕と肩を床に抑えつける。
「ぁっ!痛いよ、ライルっ」
「…僕らは、一つのたまごが二つになって生まれたから双子なんだ。」
力いっぱい抑えつけてくるライルの目は、今まで見た事がないくらい深く、だが暗い、碧色を讃えている。
「ニールは僕であり、ライルはお前でもある。」
真顔ではっきりと言い切るライルに、ニールは少し鳥肌が立った。
白い肌、碧い瞳、くりくりの茶色い髪。
同じ顔と体つきの二人。
いくら双子とは言え、ライルは、少しニールに執着し過ぎていると思う。
穏やかで明るいニールは友人も多い。
少々乱暴でわがままなライルは、友人よりもニールにべったり。
おかげでライルには、まともに友人がいない。
「僕たち、元は一つだったのに、母さんのお腹の中で二つになっちゃったんだ。だから、少しでもくっついて、元通りの一つの形に近付きたいんだ。」
ぽろぽろと涙を零すもう一人の自分。
本当は、これ以上依存させてはならないと気付いている。
二つの体で生み出された以上、違う人生を歩むしかないのだから。
(でも。)
「……いいよ、ライル。」
涙を零す瞳に、母がするように唇を落とす。
その行為に、ライルの瞳は温かさを一瞬で取り戻した。
「キス、しよ。僕とライルは、二人で一つだ。」
(僕の代わりは、君しかいない。)
「〜っ!にぃるぅっ…」
**
大好き。
だぁいすき。
僕らは双子の兄弟。
例え離れて居ても、お前が悲しみや痛みを感じたなら。
僕の心もそれを感じる。
母の胎内で元々一つの細胞だった僕ら。
例え離れて居ても、僕が誰かを愛したなら。
お前の心もそれを感じる。
違う人生を歩んでも、感じるものは同じだよ。
(だって、僕らは一つの細胞なんだから。)
*→U******