雑記帳

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「いままでなにしてたの」
「ポルノスターです」
「へー…そうなんだ‥」

平然と云ってのけた彼女だが、要するにあれやこれやするビデオに出てたって事だろ、おしゃれな横文字で言ったって意味無い。
普通、自分で云うか?
五年間、音信不通だったと思ったら。
私の知らないところでそんな事をしていたなんて。

「そこそこ人気は出ましたよ?」
「いや、そう言う事は云わなくても良いから」
「分かりました」
「で、やめたの?それで戻ってきた?」
「そうじゃないんです、今日は、お客さんとして来たんです」

2つの質問をばっさりと切り捨て、変わらない表情で云った。
相変わらず人形みたいな奴だ。

「あ、ああ、」
「お願いできますか」
「大体の物なら」
「じゃあこれを」
―標本にして下さい。
そういって、コトリとテーブルの上に置かれたのは、ビーカーに入った白い粘液…
「えっと‥‥‥‥」
「精液です無理ですか」
「無理じゃないけど」
「けど?」

ビーカーの中のどろりと白い液体を見ながら、色々云いたい気持ちをぐっと押さえ込む。
いやいや、どう考えてもおかしいけど。

「いや、何でもない」
「じゃあ、お願いします」
立ち上がって一礼。
あっけなく帰ろうとする彼女の手首に思わず手を伸ばす
「えーと…まだ書いてもらわなきゃいけない書類があるから」
座って?
そうして臙脂色のソファーに座り直す彼女を見届けてから私は考えを巡らした。
書いてもらわなくてはいけない書類が有る、というのは嘘じゃない。
ただ、情報が得たかったのだ。
ただそれだけ。
彼女が無表情のままさらりと首を傾げるようにした。
私が薄っぺらい笑みを浮かべ、ファイルの中から書類を取り出すと糸の切れた人形みたいに傾いた首が、かくん、と元に戻った。
そのままペンを差し出すと無言でさらさらと枠を埋めていく。

「これはさ、どうしたの」
「これ?」
「これ」

そう言いながらビーカーを指ではじくと彼女はまた意味が分からないというように、少し首を傾げた。

「標本にしたいと思ったんです」

表情をぴくりとも変えずに云う。
だから、そう言うことを聞いてるんじゃ無いんだって。
もしかしたらわざとやっているのか?
だとしたらこれは相当タチが悪い。

彼女にとっては遠回しな質問なんて意味をなさないに等しい。

「…私はこの5年間の話が聴きたいって言ってるんだけど‥‥」

彼女の表情が一瞬揺らいだのを見逃さなかった。
「だ、から、ポルノスターを」

心なしか声にも動揺が滲む。
「そうやって直ぐ誤魔化す」
「誤魔化してなんかっ」
「じゃあ、なんで目、逸らすの」

俯いた彼女の顔を覗き込むと、また目を逸らされた。だから頬に手を伸ばして無理やりこちらを向かせたら
剥き出しに成った白い喉がヒュッと引きつったような音をたてた。
見開かれた瞳がゆらゆらと不規則に揺れる。

「嘘、吐くなよ」

彼女の目が据わる。
そして微かに顔を歪めてから私の手首を掴んで降ろした。

「もう、帰ります。出来上がったら連絡下さい」

しまった。
そう思った時にはもう遅くて、伸ばした手はむなしく空を切った。





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