遊戯王【銀の月姫】

□第二話「再会と羽化」
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「何笑ってんの?」

怪訝そうに咲月は訊ねる。
すると城之内は、いきなり隣の遊戯の肩を抱いた。

「いや?俺達も面白ぇもん探しにな。”男の目の保養になる刺激的”なの置いてるといいなって。な、遊戯」

「!? そんな事言ってないよ!!」

顔を真っ赤にして反論する遊戯。
何の事を言っているのかは想像ついた。

「そんなの置いてない……」

「そーよ。ったくバカじゃないの」

女性陣の冷ややかな視線を浴びる城之内だったが、「冗談だって」と笑って受け流す。

「只の暇つぶしに来ただけだ。校内案内されてから、ここ来たことねぇからな」

つまり暇人だと言う本田。
確かに、城之内と本田には、図書室の静かな雰囲気はミスマッチだ。

「……例の友達じゃなくて、友達達ね」

事の一部始終を見ていた日高が呟くと、咲月は咄嗟に抗議した。

「だから、そうじゃなくてクラスメート。……本、面白かったのあっちにあるから」

そう妙に慌てて言うと、咲月は速足で図書室の奥へと行ってしまう。
それも、当の遊戯達を置いてだ。

「……クラスメート、か」

その言葉に壁を感じたのか、遊戯は顔を曇らせた。
彼女とは、決して付き合いが長いとは言えないけど、危機的状態に置かれている自分を、絶対に見捨てなかった。身を挺して、庇ってくれた。
故に彼女の人柄に触れて、自然と信用出来た。友達だとも思っていた。
だが、そう思っていたのは自分だけなのか。

「違う」

「!」

まるで自分の考えを見透かしたかの様な声がして遊戯が顔を上げれば、日高と目があった。

「あの子、人付き合いあまり得意じゃないみたいだから……貴方たちの事、友達だと思っていいんだって自信がないだけ。貴方たちの事、迷惑に思ってる訳じゃないわ。だから……」

日高が何を言いたいのか悟った遊戯は、首を左右に振った。

「大丈夫です。離れたりなんかしません。涼宮さんは、友達ですから」

「おう、そのウチアイツから、マブダチだって言わせてやるぜ!」

「腐れ縁の間違いじゃないの?」

「俺もそう思う」

「僕も」

「な……おーまーえーらーなー!」

図書室では静粛にというルールを無視して憤慨する城之内。
その様子を見ていた日高は微笑んでいた。

(いい友達出来たのね。咲月)

「ゴメンね。置いてったりして」

「いいよ、気にしないで。へー……こんなの置いてあるんだ」

興味深々とばかりに、書籍化した携帯小説が並ぶ本棚を見る杏子。
咲月はその内の一冊を手に取った。

「これ……前読んだけど、良かった」

我ながらボキャブラリーの乏しさに苦笑いしたくなるが、杏子は全く気にした様子もなく咲月が持つ本を見た。

「そうなの?どんな内容?」

「それは読んでからのお楽しみ」

「そうきたか……じゃ借りてみるわ。涼宮さんのお薦め、信じてみる」

「うん」

即決した杏子は、咲月から本を受け取ると、表紙を見て何故か微笑んでいる。

「……どうしたの?」

表紙に別に笑える所は無い筈だが。

「ううん。涼宮さんも、こういう恋愛小説読んだりするんだなって思って」

「……憧れはするかな。私、付き合うとか、告白とか、そういう青春って感じの生活したことないから……」

「え!マジ!?」

仰天する杏子。
そして声がデカい。

「真崎さん、声……」

「あ、ゴメン……ホントに、今まで誰にも告られた事ないの?」

「うん」

「嘘……」

杏子は顔を顰める。
そして呟いた。

「何で?」

「え?」

「だってさ、涼宮さん肌白いし、スリムだし、顔だって可愛いじゃん」

真顔で言う杏子。
可愛い?自分が?そんな事言われたのは初めてだ。

「それ違うと思う……」

信用してない咲月は首を振るも、杏子は言い切る。

「違わない。涼宮さん、髪全然傷んでなくて羨ましいけど、前髪で顔隠すの勿体ないよ。切らないの?」

「!」

自分の視界に入り込む前髪。
もう慣れてしまっているが、面倒で切らない訳ではない。
これは……

「……自分で切ったら失敗しちゃうから、怖くて手出せないんだよね」

「美容室は?行かないの?」

「……そのウチ行く」

前髪を軽く抑えて言うと、杏子がにっこりした。

「そっか。そっちの方が似合うよ。きっと」

「……うん」

曖昧に笑う咲月。
……長い前髪。面倒で切らない訳ではない。
これは




目隠しなんだ。









杏子と別れて、咲月は遊戯達を探した。
流石に彼らは、携帯小説には関心がないらしい。

「!」

ふと目に入ったのは、長編小説の本棚の前に立つ遊戯。
しかし、彼一人だけとは

「……武藤君」

「!」

「さっきは……置いてってゴメン。城之内君達は?」

「あぁ、いいよ気にしてないから。城之内君達は……あそこ」

遊戯は彼方を指さした。

「!」
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