遊戯王【銀の月姫】

□第二話「再会と羽化」
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此方に背を向け、何かを読み漁っている二人。
あそこは確か、漫画本が納めてある本棚がある筈だ。
やはり、あの二人は小説よりも漫画の方がお好みらしい。

「何か、面白いのある?」

5センチ程低い位置にあるアメジスト色の目が、咲月を見上げる。
咲月は視線を本棚に向けると、一冊取った。

「これ……来月公開する映画の原作。面白かった」

「そうなの?……あ、ホントだ。最近CMしてるよね」

本を受け取った遊戯は、興味深そうに表紙を眺める。
そしてふと何か思ったのか、表紙から視線を外すと咲月に訊ねてきた。

「これ、映画化するけど……涼宮さん、見たい?」

「うん」

あっさり前に傾く頭。
考える余地はないらしい。

(即決できる程面白かったんだな)

表情からは何を考えているのか解り難い彼女だが、どうやら雰囲気に感情が現れるらしい。
心なしか、彼女のテンションが上がった気がする。

「そっか。じゃ、公開したら――――」

遊戯が喋っている途中だった。

「!!」

遊戯の前で、咲月の肩が通行人とぶつかった。
驚いた咲月が肩に顔を向けると、ぶつかった通行人と眼鏡越しに目が合う。

「九条君……ゴメン。邪魔だったでしょ」

九条と呼ばれた男子生徒は、眼鏡のフレームを人差し指で押し上げると、首を振った。

「いい。……僕もボーっとしてたから。こっちこそゴメン涼宮さん」

抑揚の無い声。
咲月も若干淡々とした口調だが、この九条という少年の物言いは、まるで感情が感じられない。
しかも顔まで無表情と来ているのだから、冷たい印象を見た者に植え付けても仕方ない。
現に遊戯は、そう思った。

「……最近昼休み来ないね。……何かあったの?」

「ううん。何もない。ただ……教室とか、食堂で最近お昼食べたり、遊んだりする様になったから、行く機会減っただけ」

「……一人で?」

「一人じゃない……クラスメートの人達と……」

「”友達達”とでしょ?」

「!」

少しだけ目を見張って、割り込んできた声の主を見る。
遊戯は、真直ぐと咲月を見ていた。

「……」

呆気に取られる咲月。
だが遊戯は、その瞬間咲月が微かに嬉しそうに笑ったのを目の当たりにする。
それを見て、自分まで吊られて笑みを浮かべてしまう遊戯。

ところが、そうしていられたのもつかの間だった。

彼女の微笑みに、吊られて笑ってしまった遊戯。
だがその最中、刺す様な視線を感じてそれを辿れば、眼鏡越しの冷たい目と目が合った。

「……!!」

遊戯は僅かに息を呑んだ。
ゾッとするような目つき。明らかに遊戯を睨んでいる九条から、彼は明確な敵意を感じた。

「……? 武藤君?」

「!!」

我に返って咲月を見る。
怪訝そうな様子の咲月は、「どうかしたの?」と訊ねてくる。

「ううん。……何でもないよ」

遊戯は笑顔を取り繕って、頭を振る。

「……そう?」

「うん」

「……」

遊戯は笑ったままそう言うが、咲月はその笑顔に何となく違和感を感じて、どうも腑に落ちなかった。

(ホントかな……さっき何かに驚いてた様な気したんだけど)

「……僕はもう帰る。じゃあね涼宮さん」

「!」

訝しんでいると、傍らに立っていた九条が一歩咲月から離れる。
文字通り帰る為だろう。

「うん……バイバイ」

「あぁ。……“また”ね」

「……」

去っていく九条。
彼に手を振る咲月に、遊戯は訊ねた。

「涼宮さん……今の人友達?」

咲月は振っていた手を降ろす。
何故だろう。何だか遊戯の顔が不安気に見える。

「九条君は……知り合いかな。あんまり話した事ない。……クラスだって隣だし、ここ以外じゃ会わない」

「……そう、なんだ……」

「……?」

微かに俯く遊戯。
曇る顔の理由は、咲月には分からなかったが

「……」

遊戯の脳裏に、甦る光景。



自分を睨む、あの冷たくて暗い瞳。

そして、何より咲月にぶつかったあの時



遊戯は、咲月の正面に立っていた。
故に、彼が咲月の背後から近付いて来るのが見えていた。


もし、自分が見間違えてなかったら



咲月にぶつかったあの時



彼は





ワザと彼女にぶつかった様にしか見えなかった。



(……あの人




もしかして涼宮さんの事……




でも




それなら睨まれても仕方ないって思うのに




何でこんなに胸騒ぎがするんだろう)
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