遊戯王【銀の月姫】

□第八話「we trust you」
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踏みつけた水溜まりが、足元で飛沫をあげた。

(確か、この辺りだった筈……)

咲月は周囲を見渡した。
あの後、手分けして城之内を探す事になった一同は、各々別行動をとっていた。
咲月は聞き込みを行い、先程隣玉の制服を着た集団が、1人だけ違う制服を着た少年を、廃墟と化した倉庫へ連れて行くのを見たという情報を入手し、たった今現場に辿り着いた所だった。

(棄てられた倉庫……一つだけじゃない……城之内君……どれに居るの……!?)

倉庫は幾つもあり、雨がトタン屋根にぶつかる音が邪魔で、何も聞こえない。
城之内の居場所が解らない。
片っ端から見ていくしかないか。

(……とにかく、本田君に一旦連絡しよう)

見つけたら、自分に連絡するように本田から言われている。
こうしている間にも、城之内がどんな目に遭っているのかと考えたら居ても立ってもいられないが、彼を確実に助ける為には人手が必要だ。

「……」

スマホを耳に当てる。
呼び出し音が鳴って直ぐ、本田に繋がった。

『見つかったのか咲月!』

「ううん。城之内君はまだ見つけてないけど、大体の居場所は突き止めた。でも……」

連れてかれたと聞いた倉庫は幾つもあって、どの倉庫に居るのかまでは解らない。
咲月はその旨を本田に説明する。

『……解った。で、その倉庫がある場所は!?』

「えっと……」

現在地の住所を本田に教える。
ザーザーと降る雨音が変化したのは、教え終わった直後だった。

「ぐわああああああああああ」

「!!?」

雨音に紛れて聞こえた悲鳴。
今のは

「城之内君……!?」

『!? 何だって!?』

咲月の呟きに本田は耳を疑ったが、咲月は愕然としたまま硬直していた。
聞こえた悲鳴は、間違いなく城之内のものだ。
やはり近くに居たのか。
いや、それよりこれはただ事ではない。

「……本田君、ゴメン。急いで来て!!」

『!? おい、ちょっと待て咲月!お前まさか……』

電話を切った咲月はスマホをポケットに押し込んで、悲鳴が聞こえた方へ駆けだした。





バチッと音を立てて、電流が身体を突き刺す。

「ァ……ッグ……」

強烈な電流の洗礼に、城之内の意識が途切れた。
ガクリと下がった彼の頭を見て、手下の1人が舌打ちをする。

「んだよ……気絶しちまったぜ」

「スタンガンだからな。蛭谷さん、まだ続けます?」

「……そう簡単に、楽にさせるな」

「ですよね」

ニヤリと笑みを浮かべた手下が、再び城之内にスタンガンを向ける。
その時

「止めてええっ!!!」

「!!」

突然の叫び声に、不良の手が止まる。
何者かの乱入に、不良共はこぞって壁に空いた穴を見やった。

「……あ?」

手下の1人が、眉を顰める。
この状況で、単身で乗り込んで来たのは

「女?」

自分達に向かって来る乱入者の正体が解るなり、手下共は嘲笑を浮かべた。

「何だお前。城之内の女か?」

「それとも、迷子にでもなっちゃったんですかぁ〜?」

不快な猫なで声が耳障りだ。
咲月は手下共の戯れ言には一切耳を貸さず、蛭谷を見た。

「……城之内君を返して。もういいでしょ……此処までやったら」

「お前さっき見た女だな。1人で助けに来た度胸は褒めてやるが……それは出来ねぇな」

蛭谷は城之内に嘲笑を向ける。

「……コイツはな、自分の身の程を解ってねぇんだ。一番は俺以外いらねぇ。まだ調子に乗った罰を受けてもらうぜ」

「……」

……やはり、そう上手く事が運ぶ筈がなかった。
咲月は気絶したボロボロの城之内を一瞥する。
これ以上、城之内を傷つけさせる訳にはいかない。
しかし、自分に喧嘩の心得なんか無い。言いくるめられる話術もない。
故に、奴等を止める方法は、これしか思い付かなかった。

「……じゃあ


その罰は私が受ける。


だから城之家君の代わりに私を殴って。


貴方達の気が済むまで」

「……!?」

「は?」

蛭谷と手下共の顔が、一様に驚きを浮かべる。
しかし、直後に上がったのは笑い声。

「何だお前、そっち系?」

「てか、自己犠牲って奴?マジカンドーした」

「けどさ、俺達女殴る趣味ねぇし……どうせなら、もっと面白ぇ事したいな。なぁ?」

「……!!」

ニヤリと上がった口から歯列が覗く。
背中を氷が滑って落ちていく様な悪寒が走る。

「大丈夫だって、痛くはしねぇから……」

「っ、触らないで!!」

伸びてくる手を払いのける。
途端、手下の手が醜く歪んだ。

「あ!?調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」

「!!」

此方に伸びていた手が、今度は振り上げられる。
殴られる……と思って、顔を背け目を閉じる
刹那

「止めろ!!」

「ム!!」

「……!!」

空気を裂いて響いた声。
……来てくれたのか。

「……」

閉じた瞼を開けて、声がした方を見る。
穴が空いた壁から、此方に向かってくるのは

「遊戯……」

怒りを孕んだ瞳は、咲月を一瞥すると、手下共を睨み付けた。
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