遊戯王【銀の月姫】

□第八話「we trust you」
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繁華街に足を運び、城之内が行きそうな場所を手当たり次第に探す。
しかし、城之内は見つからない。

「ダメだ……何処にもいねぇ……彼奴の行きそうな所は、全部回ったんだがな……」

「……城之内君」

城之内が心配なのか、遊戯は顔を曇らせる。
その遊戯を励ますかの様に、本田は笑いかけた。

「後は俺が探すから、お前らは遅くならないうちに帰った方がいい。なに、アイツなら心配ないさ。明日には面出す」

「そうしよ二人とも……」

「うん……」

「でも……」

「大丈夫だぜ、二人とも!」

城之内の事を考えると気がかりで咲月直ぐに頷く事はできなかったが、悩みは早々に打ち切られた。

「オラー!!!」

「!?」

いきなり聞こえた怒鳴り声に驚いて顔を上げれば、少し離れた場所で気が弱そうな学生が、見るからに柄の悪い連中に因縁を付けられているのが見えた。

「人の足踏んどいてシカトこく気かよ!」

「ス…スイマセン……」

「まぁ、いいんだけどね……金さえくれりゃさ」

不良集団に、明らかにカツアゲされている学生。
一部始終を見た訳ではないが、果たして足を踏んだというのも事実かどうか疑わしい。

「あの制服は燐玉高の奴らだぜ。相変わらず悪が揃ってやがる……関わらない方がいいぜ」

見ていて愉快な光景ではない故、本田は眉を顰めて呟いたが、その時遊戯の目が見開かれた。

「!! あ……あれ…」

「?」

遊戯の視線の先を辿る咲月。
遊戯が何に驚いているのか気づいた瞬間、彼女も仰天して目を疑った。

金を支払う事を拒んだのか、燐玉高の連中は学生に暴行を加えている。
その連中の中に、見慣れた金髪と制服姿の少年が混ざっていた。
あれは

「城之内君!!」

遊戯の言う通り、あれはどう見ても城之内だった。
城之内は、暴行にこそ参加していないが、かといって周りの連中を止める訳でもなく、静かに事を見ているのみ。

「な……何故燐玉高の奴らなんかとツルんでやがんだ!?」

信じられないといった風に、本田は愕然とする。
咲月も絶句して城之内に釘付けになっていたが、連中は学生の財布から金を抜き取ると、その場を去ろうと動き出す。

「城之内!俺達の溜まり場に案内するぜ!J,zって店!」

「!」

我に返った遊戯は、城之内の元に駆け寄った。

「城之内君!」

去ろうとする城之内の背中に、遊戯は必死で呼び掛けた。

「城之内君!」

「!!」

遊戯の声に気付いた城之内が、立ち止まって微かに振り向いた。

「城之内君どうして学校に来なかったの……どうしてそんな人達と……」

「……そんな人って……僕等の事?城之内、知り合いか?あのガキ」

ニット帽を被って煙草を吸う少年が、城之内に訊ねる。
知り合いじゃない訳がない。
ところが城之内は

「いや、知らねーよ……行こーぜ!」

「!!」

顔色一つ変えず平然と宣われた言葉。
咲月は驚きに言葉を失っていたが、城之内は再び遊戯に背を向ける。

「城之内君!」

困惑しながらも、城之内がマズい連中と行動を共にしているのは見過ごせないのだろう、遊戯は食い下がる。
その様子を、鼻で笑う男がいた。

「けっ…城之内…お前もすっかり骨抜かれちまったなぁ…童実野高なんぞに行くから、あんなガキが懐いちまう!だから最初から隣玉に来りゃ良かったんだぜ!俺と一緒によ……」

「!」

ピアスを付けて、煙草を吹かす男。
雰囲気的に連中のリーダーだと咲月は察したが、その男の顔を見た本田は目を剥いた。

「蛭谷!!」

「!? 本田君知ってるの!?」

「中学の時、城之内と連んでた筈だ……けど何で今更あんな連中と……!!」

「……!!」

困惑と驚きに塗り固められた本田の顔。
何がどうなっているのか、現状では解らない。

「城之内君、一緒に帰ろう!」

城之内しか目に入っていないのか、遊戯は未だに城之内を説得している。
その時だ。

「!!」

ふと城之内の反れた視線が咲月を捉える。
顔には、笑顔も蔑みもない。
ただ

「……」

此方を見る視線には、敵意を感じない。
代わりに、何かを訴える様な光が見え隠れしている。
遊戯を一瞥し、再び茶色の虹彩が咲月を見た。

「蛭谷さん、あのガキうるせぇよ……城之内も知らねーって言うし」

「……!!」

咲月がある事に気付いたのと、ニット帽を被った少年が動き出したのは、ほぼ同時だった。

(ダメ……!)

それ以上、奴らを刺激してはいけない。
遊戯を止めようと、咲月は彼の元へ駆け出す。

「遊戯君、その人達から離れて!!」

しかし、咲月の制止は一足遅かった。

「さっきからギャーギャー煩ぇんだよ!クソガキ!!」

「!!」

咲月達の前で、遊戯は少年に殴り飛ばされ、地面に倒れ込んだ。

「遊戯君!!」

悲鳴じみた声を上げて、咲月は倒れた遊戯を抱き起こした。
痛みに顔を歪める遊戯を見下ろし、少年は嘲笑を浮かべる。

「へへ……僕らのお友達の城之内に気安く声かけんじゃねーよ。今度面見せたら殺すぞ!」

「遊戯、大丈夫か!」

「遊戯!」

駆け寄って来た本田達も、遊戯の有様に顔を歪めるが、城之内は何の反応も示さない。

「じ…城之内君……」

「城之内!あんた最低だわ!見損なったよ!」

「ど……どうしちまったんだ城之内!」

「……」

咲月は微動だにしない城之内の背中を見つめる。

彼は、結局自分たちに背を向けたまま

無言で連中と共に去っていった。
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