遊戯王【銀の月姫】

□第八話「we trust you」
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暴力沙汰は野次馬を呼び、やがて警察を呼べとまで聞こえてきたので、一同は公園に避難した。

「遊戯大丈夫…?濡らしたハンカチ……顔に当ててなさい」

「僕大丈夫だよ」

ありがとう。
ベンチに座る遊戯は杏子に微笑んだが、彼の隣に腰掛ける本田の表情は暗く沈んでいた。

「本田君……」

「城之内(アイツ)……」

本田の口調からは、いつもの活気が抜けきっていた。
地面を見下ろしたまま、彼は語り出す。

「中学ん時、結構悪でよ……周りの中学の奴とか、時には高校の連中巻き込んでは、喧嘩に明け暮れてた時期があって……。

結構補導歴とかあったし……少年院行きかけてたくらいでさ……。

そん時連んでたのが、さっき居た蛭谷って奴だ」

「……!」

城之内は柄が悪い。
しかし、いざ接してみると、基本的には明るく、窮地の友を助ける為なら自分の事は二の次な彼の人柄が見えてきた。
そんな彼の過去が、まさかそれ程荒れていたとは。
家庭環境が、当時の彼を非行に走らせたのだろうか。
真実は城之内にしか解らないが、いずれにせよ、明るい笑顔の下で彼は複雑な事情を抱えていたに違いない。

「今でこそタメ口言ってる仲だけど……俺昔アイツに憧れてた……でも俺、半端だったし……」

「……」

城之内の過去に、一部自分の事を独白する本田。
城之内に対する気持ちは、取り留めもなく流れていく。

「アイツ下の奴らには面倒見良かったし……弱い奴には手出さなかった……でも……。

どうしちまったんだアイツ……もう帰って来ねえかも……」

くそ…。
振り絞るかの様に呟いた本田は、頭を抱えてうなだれた。
此処まで参っている本田を見るのは初めてで、今彼が困惑と不安に駆られているのがひしひしと伝わってくる。

もう、自分達の元に帰って来ないのだろうか。
人を暴力で這い蹲らせる悪行に加担するのだろうか。

「……私は……結論を出すのは、まだ早いと思う」

「……え?」

驚いた本田が顔を上げ、遊戯と杏子も咲月を見た。

「……私の勘違いじゃなかったらだけど、さっき城之内君に遊戯君を止めるように頼まれたの。多分、あのまま食い下がったら、遊戯君がアイツ等に酷い事されるって、解ってたから……」

「!!」

遊戯の目が丸くなる。
まさか、自分を冷たくあしらっておきながら、咲月にそんな事を彼が頼んでいたなんて、想像だにしていなかったのだろう。

「確証はない。……でも、城之内君の視線が、私と遊戯君を行ったり来たりしてたから、何となくそうじゃないかなって思った。それに、昨日バイトの帰りにも、城之内君と会ってたの。その時は城之内君一人だったけど、何か様子が変だった」

「! 本当か!」

目を剥く本田に、咲月は頷いた。

「今回の事に関係あるのか自信なかったから言わなかったけど……あの時の城之内君……何か違和感があったって言うか……そう

元気なかったんだ」

昨夜見た城之内の笑顔。
力が無いように見えたのは、きっと気の所為じゃなかったんだ。
何か思う所があって、笑える気分じゃなかったのだろう。

「……全部勘だから、断言は出来ないけど、私は……城之内君が望んであの人達と一緒にいるんじゃないって思う。何か、事情があるんじゃないかな……」

そうであって欲しい願望に過ぎないのではないかと言われれば、否定は出来ない。
それでも、今まで自分達が見てきた城之内の姿が、彼の本当の姿だと信じたい。

「……」

遊戯は、自分の胸元で光る千年パズルを撫でた。
……彼と友達になったきっかけは、これだったか。
目を閉じれば、彼と築いた思い出達が頭に浮かんでくる。
口は悪いが、根は優しかった城之内。
そんな彼が、あんな性根が腐った奴等の同類な訳がない。

「僕も信じてる……。

城之内君は変わってなんかないよ!」

「お前ら……」

城之内を信じるという意志を貫いた遊戯と咲月の言葉が、不安と困惑に潰れかけていた本田を立ち直らせた。

「そ…そーだよな。アイツ単純だけど、そんな奴じゃないよな!」

「うん」

大きく首肯する遊戯。
ベンチから立ち上がると、改めて目標を宣言する。

「僕城之内君と帰る!」

「私も!」

「よし、俺も!」

皆の意志は固まった。
真実はまだ解らない。
城之内が、好きで彼らと一緒にいる可能も0ではない。
しかし、まだ起きていない事態に怯えて、何もしないのは嫌だ。
後から後悔はしたくない。
手遅れになってからじゃ遅いのだ。

「皆で……帰ろう」

「うん!」

「おう!」

「当然!」

咲月の言葉に、全員が躊躇いなく頷く。
本田が、宙を睨んだ。

「咲月の言う通り、これにはきっと訳がある筈だせ……確かジェイズって店に行くって行ってたな!」

「行ってみよう!」

決断するなり、一同は公園を後にした。
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