遊戯王【銀の月姫】

□第八話「we trust you」
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ついに空から、数多の滴が地上に落ちてきた。
普段なら傘をさしている所だったが、今は走りの邪魔にしかならない。

「……っ」

咲月達は、大急ぎでジェイズに引き返していた。


数分前、本田が脅迫して不良に自供させた内容は要約するとこうだった。

蛭谷はグループの勢力を伸ばしたいが為に、昔の仲間をグループに引き入れており、城之内にも白羽の矢が立った。
しかし城之内が誘いを断った為、蛭谷は仲間にならないと、クラスメートを一人ずつ闇討ちにかけると、城之内を脅迫したのだ。

不良は、その卑劣な行為を聞くに耐えなかった本田の鉄拳に沈んだ。

しかし解った事がある。
やはり城之内は、変わっていないと言う事だ。
自分達が信じた城之内こそが、真実だったのだ。

ジェイズの入り口にたどり着くと、咲月は店に繋がる階段を見下ろす。

(城之内君……)

何とか助け出さなくては。
自分達の為に、彼が非行に加担させられるのは見過ごせない。

「遊戯…杏子…咲月……ここからお前等は、入ってくんな!俺一人で行く!!」

「!?」

突然の本田の宣言に、咲月は仰天した。
何を言っているんだ。

「で…でも本田君!」

「一人で行くなんてムチャだよ……!」

多勢に無勢だ。
本田は先程、三人までなら俺一人で何とかなると言っていたが、奴等の人数は三人どころではない。
彼だって、それは解っている筈なのに

「隣玉はお前等が関わるような連中じゃねぇんだ!!」

「!」

「……!!」

本田が叫んだ瞬間、咲月は微かに息を呑んだ。
無謀なんて、そんなの百も承知だ。
それでも、彼は選んだ。
友を救い、守る事を。
確固たる意志を宿す双眸からは見えたのは、覚悟以外の何でもない。
本田は遊戯達に背を向けると、肩越しに微笑んだ。

「遊戯!俺らみてぇのと友達(連ん)でも……お前は荒んだりすんなよ!な!」

「本田君!」

遊戯達の前で、本田は階段を駆け降りていく。
灯りが点いていない地下は暗く、本田の姿は黒く埋もれていった。



「本田君……やっぱり出来ないよ!このまま何もしないなんて!」

本田が単独で店内に乗り込んで程なくすると、遊戯が我慢ならんとばかりに声をあげる。

「うん!やっぱり、私たちも行こう!……?」

遊戯に同調した杏子だったが、階段下を険しい顔をしたまま無言で見下ろしている咲月に気付く。

「咲月ちゃん?」

「……ゴメン。ちょっと2人とも静かにして……」

遊戯達は怪訝そうか顔を見合わせていたが、とりあえず言われた通り暫し口を噤む。

「……」

暫し耳を澄ます。
……おかしい。

「……静かすぎる」

「え?」

どういう事かと、訊ねる暇も無かった。
呆気に取られる遊戯の前で、咲月が俄に階段を駆け降りる。

「咲月ちゃん!?」

杏子が驚きの声を上げたが、咲月は止まらない。
駆けた先に見えた、解放されたドア。
その先に進んで見えた光景は

「……!!」

酷く荒らされた店内。
そのカウンターの脇に、しゃがみこんでいる本田の姿が見えた。
手には、気絶した蛭谷の手下が掴まれている。
……店内に居るのは、自分と本田、そして気絶したニット帽の不良の三名のみだった。
道理で、乱闘になってる筈なのに静かな筈だ。
蛭谷達も、城之内も居なくなっている。

「咲月……!お前、来るなって言ったのに!!」

「ゴメン……でも、これ……城之内君何処行ったんだろ……!?」

咲月は店内を見渡して、眉を顰める。
本田は唇を噛み締めた。

「城之内……マズい事になったかもしんねぇ……!」
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