遊戯王【銀の月姫】

□第八話「we trust you」
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老朽化により、所々破損した天井。
捨てられた工事の資材達。
廃棄された倉庫にて、鈍い音が立て続けに聞こえた。

「オラオラァ〜」

不良の拳が城之内の顔を殴り、足が腹を蹴る。
ジェイズで蛭谷に反旗を翻した城之内だったが、大勢の手下相手に立ち回りきれず、拉致されて意識改革の名の元に拷問を受けていた。

「……」

口に溜まった血を吐き出して、城之内は蛭谷を睨んだ。

「フフ…なかなかいい眺めだぜ城之内」

天井から垂れ下がるワイヤーのフックに吊し上げられてて、身動きがとれずボロボロになった城之内を見て、蛭谷は冷笑を浮かべる。

「へっ…こっからの眺めも満更じゃねぇぜ!ケツの赤えボス猿が下っ端連れて吠えてやがる姿がよ…」

「……」

減らず口を叩いて笑い飛ばす城之内を見ていた蛭谷の眼が据わった。
手下共を一瞥すると、その意図を察した奴等が、城之内を殴り始める。

「城之内…おめぇは中坊の時からそうだったよなぁ!俺に対して何時も対等のつもりでいやがった」

それでも自分と城之内が連んでいれば、怖いものはなかった。
立ちはだかる敵は例外なく薙ぎ倒す所業は高校にまで届き、手下もかなりの数を従えた。
しかし、蛭谷は最後まで成し得なかった事があった。
それは

「てめぇが二番で……その上に俺がいる……その事をてめぇに教育し忘れてたぜ!」

リーダーもNo.1も、1人でいい。
自分と対等な存在など、蛭谷は最初から必要としていなかった。
故に、不要な存在は排除される。

「ハハハ…やっぱ…ボス猿の考えそーな事だぜ!」

殴られながらも、蛭谷の主張を聞いていた城之内は失笑を浮かべる。
自分は誰の下に着くつもりはない。ましてや、こいつらは仲間などではない。

「どーした。へ…終わりかよ…俺はまだ記憶も飛んじゃいねぇ!てめぇら下っ端共の顔……どいつが何発入れやがったか、全部記憶してるかよぉ……執念深いぜ俺はよ……キッチリ倍にして返してやるぜ!」

体力は尽きても、気力は尽きていない。
城之内は自分を取り囲む連中を鼻で笑い飛ばしたが、笑ったのは蛭谷も同じだった。

「安心しろ……スペシャルメニューはこれからだ……記憶も吹っ飛ぶフルコースだぜ!」

クククと笑う蛭谷の手下共が、一斉に懐から何かを取り出す。
それが何なのか気付いた瞬間、城之内は眼を見張った。

「へへ、スタンガンだぜ。20万ボルトのな……」

「こいつのスイッチをONにすれば、電流は流れ続ける……記憶が飛ぶなんざ通り越して、昇天しちまうかもしれねぇぜ!」

「くっ……」

目の前でスタンガンのスイッチが押される。
パチパチと音を立てる凶器が、城之内に向けられた。

「へへ……逝っちまいな城之内!」

スタンガンが近付く。
こんな物を食らったら、只では済まない。

「くそったれが!!」

思い切り足を振り上げた城之内の靴底が顔面に直撃し、手下の1人が吹き飛ばされ、そのまま撃沈した。
しかし、対処出来るのは1人が精一杯。

「野郎!!」

手下が一斉に城之内に襲いかかる。
その瞬間


降り注ぐ雨音に、一つの絶叫が紛れた。
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