遊戯王【銀の月姫】
□第二話「再会と羽化」
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牛尾に罰ゲームの鉄槌を下した後、〈遊戯〉は尖った屋根に登り、立て続けに下にある平たい屋根に飛び降りた。
「!」
何気なく顔を上げる。
すると、前方に少女が立っているのが見えた。
長い黒髪に、月明かりを浴びている所為で、尚更白い肌が、闇に栄える。だが、長い前髪のお陰で目元は見えにくい。
彼女は確か、遊戯のクラスメートだったか。
(どうして此処にいるんだ?)
牛尾を此処に連れてきたのは自分だ。
だが、奴以外を此処に連れてきた覚えはない。
彼女は気絶していた筈だ。
いつの間に……どうやって此処に来たのか。
「……」
そっと彼女に近づいた。
危害を加えるつもりはない。
ただ、どういう事が話がしたいだけ。
コツコツと足音が響く中、その時彼の背後からヒュウと風が屋根を吹き抜けた。
それは彼女にしたら向かい風となり、彼女の額から前髪を払う。
そして暴かれた双眸を見た〈遊戯〉は、驚きに目を見張った。
淡く銀色に輝く虹彩。
青白く縁取られた瞳孔。
それは、常識じゃ在り得ない目の状態だった。
だが何故だろう。〈遊戯〉は、不思議な事に気味が悪いとは微塵も思わなかった。
「……」
立ち止まる事なく、進む。
見えたのは、瞳の色だけじゃない。
戸惑も見えた。
「……そんなに警戒するな」
自分が近付く度に、彼女は後退する。
……自分が、遊戯ではない事に気付いているのか。
敵ではないのだが……どうすれば解ってもらえる?
自分の言い方が悪かったのか、余計警戒し出す彼女に、〈遊戯〉はどうしたものかと考える。
だが、悠長に考えている暇は無いようだ。
彼女の足元が、もう後がない。
「それ以上下がったら落ちるぞ」
警告して、漸く彼女の足が止まる。
後退を止めた彼女。
〈遊戯〉は、歩くのを止めず、彼女の目の前に辿り着いた。
『……』
さっきから無言を貫く彼女。
怯えている訳ではないようだが、目が不振に満ちている。
さて、何て切り出そうか……なんて考えて、〈遊戯〉はふと思った。
銀色の彼女の瞳。
不思議だ。彼女に会うのも、目を見たのも初めての筈なのに、何だか見覚えがある気がする。
……美しい。
(どうして……)
魅入られる様に、彼女の瞳を見つめると、今度は心臓に異変が起きる。
……クン……ドクン……ドクン……
「……?」
徐々に高鳴りだす胸。
そして、何故か懐かしい気持ちになる。
どうしてだろう。
自分は初めて会う筈なのに
彼女を見ていたら、切なくなって苦しい。
(お前は……)
何者なんだ?
答えを求めて、〈遊戯〉は無意識に彼女に手を伸ばした。
刹那
『……っ!!』
何かを叫んで、彼女は〈遊戯〉から飛び退いた。
しかし、声は聞こえない。
そして
「っ!!」
目の前で、彼女が足を踏み外した。
仰天した〈遊戯〉は、咄嗟に彼女を助けようと手を伸ばす。
だが
届いた筈の手は、彼女の指をすり抜けた。
「!?」
目を剥く〈遊戯〉。
彼女は、表情を凍り付かせたまま落ちる。
そして、景色に溶けていくかの様に
消えた。
「……」
(消えた……!?)
愕然とする〈遊戯〉。
触れられなかった上、消えた彼女。
満月の下で、1人残された〈遊戯〉は呆気に取られていた。
何だったんだ今のは。
「涼宮咲月……」
彼女は、本当に何者なのだろうか。