遊戯王【銀の月姫】
□第八話「we trust you」
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ある日曜日の夜。
「……!」
バイトの帰り道で、咲月は前方に見慣れた後ろ姿を見かけた。
「城之内君」
「!」
呼ばれて立ち止まった彼が振り返る。
咲月と目を合わすなり、城之内は笑いかけた。
「咲月……奇遇だな、こんな所で会うなんて。バイト帰りか?」
「うん。……杏子ちゃんは、今日シフト一緒じゃなかったけど」
「そっか」
夜になれば、繁華街は灯りで眩しい。
それが目に堪えたのか、城之内は目を微かに細めて訊ねてきた。
「……学校、楽しいか?」
「え?」
まさか突然そんな事を聞かれるとは思ってなくて、咲月は目を丸くする。
だが、答えなんて解りきっていた。
「遊戯君も杏子ちゃんも本田君も……城之内君とも一緒にいるから、楽しいよ?」
「……そうか。……なら、良かった」
城之内の顔が、嬉しそうに綻ぶ。
しかし、何故だろう。
……咲月は、何となくその笑顔に違和感を感じた。
「……いきなりどうしたの?そんな事聞いてきて」
「……ん?」
気の所為かもしれないが、感じた違和感に嫌な予感がして訊ねれば、彼は笑みを浮かべたまま咲月の頭をポンポンと叩いた。
「何となくだよ。深く考えんな」
「……何か誤魔化そうとしてない?」
「してねーって」
身長差が20センチ前後ある所為か、下から向けられる疑いの眼差しを、笑って受け流す城之内。
彼女の頭から手を離すと、一歩下がった。
「じゃ、帰り気つけて帰れよ」
「帰れって……城之内君は?」
「俺これから行く所あんだ。まだ帰んねぇよ」
「……!……あんまり遅くなったらダメだよ。……チンピラとか増えるし」
「何だよ、俺がやられるってか?」
「違う。……怪我したらどうするの。偶に傷作って来て……見てるこっちが痛いのに、売られた喧嘩直ぐ買っちゃうんだから……」
「……!」
小言じみた咲月の言葉に、城之内は吹き出した。
「小姑みてぇだな、お前」
「……!?」
いきなり吐かれた失礼な言葉に、咲月は即座に異議を唱えた。
「もう、人が真面目に言ってるのに……」
「解ってるって、だから心配すんな」
笑いながら城之内は咲月に背を向ける。
後ろ手を振りながら、「じゃ、あんま遅くなんなよ」と言い残して。
(……君がそれ言う?)
帰宅せず、これから寄り道する彼に疑問を禁じ得ないが、咲月は遠のく背中に言った。
「また明日ね!」
城之内は、こちらを振り向いた。
しかし
「……」
返って来たのは返事ではなく、微笑みのみだった。