遊戯王【銀の月姫】

□第十話「心の部屋での対峙」
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男が侵入した、遊戯の心に二つ存在する「心の部屋」。
片方は、純真で邪念も汚れもない部屋。
そしてもう片方は……








「勇気があるなら入って来いよ!俺の「心の部屋」に……!ゲームが待ってるぜ!」

勇気があるなら入れ。
それはつまり、怖じ気づくなら去れと言う事だ。
顔にこそ笑みが浮かんでいるが、男は〈遊戯〉の身体からにじみ出る警戒心と威圧感を感じ取っていた。

「どうした。ビビってるのか?勇気を出せよ!」

明らかに男を挑発している〈遊戯〉。
自信を感じさせる口調は、侵入者を排除出来る自信の現れか。

「……」

此処まで来て、引き下がる訳には行かない。
言われるがまま男は一歩、〈遊戯〉の「心の部屋」に踏み出す。
その途端、男は自身の肌に触れる空気が冷えた様な感覚に見舞われた。

(私は過去に、色んな人間の「心の部屋」を訪れた……それぞれ「部屋」の「模様」こそ違えど、通常心には一つの「部屋」しか存在しない……!しかし……)

男は自分を囲む壁、そして天を閉ざす天井を見た。

(この少年の心の、もう一つの「部屋」はどうだ……重く……冷たく……まるで古代エジプトのファラオの墓のようだ…!!!)

石のブロックで出来た壁には、それこそ美術館に展示されていた、古代の絵に酷似した模様が書き連ねてある。
先程見た、邪念も汚れもない純真さが有る部屋と、似ても似つかない有様に男は唖然とした。

「お前がどんな「力」を使って、俺の「部屋」に来れたかは知らないが……何の目的で此処に来たかを聞かせてもらおうか」

「……」

まさか、「心の部屋」が二つあり、しかもそこで部屋の主に会うとは思っていなかったが……やはり当然の疑問か。

「フフ…君からすれば、私は招かれざる客…その質問に答えるのが…せめてもの礼儀か……」

出会ってしまった以上、隠すのも不可能な話だ。
〈遊戯〉が静かに答えを待つ前で、男の口が開いた。

「私は君の持つ「千年パズル」の「力」の秘密が知りたくて、此処を訪れたのだ」

「……!」

聞いた瞬間、〈遊戯〉の目が微かに見開く。

「千年パズルの存在を知っているとはな……」

「ああ、知っているとも。それが「闇の千年物(千年アイテム)である事も……」

古代エジプトの時代から、三千年もの間「王家の谷」に伝わる「闇の千年物」。
それらは古代のファラオに仕える魔術師達によって「王墓を暴き、財宝を盗み出す罪人」を裁く為に生み出された物。
「ペル・エム・フルの書」には、そう記されている。

「此処に来れたのも、その「千年物」の力って訳か…」

「「闇の千年錠」の力だ!これは人の「心の部屋」への扉を開ける為の物…「部屋」を見る事で、その者の全てが解る。性質・趣味・潜在能力・コンプレックス・トラウマ……」

そして、今は手元にはないが、もう一つの千年物、「闇の千年秤」。
これは裁かれし者の罪の重さを量る為のアイテムであり、千年錠を含めて男が所持している。

「だが……私は「千年パズル」の「力」は知らぬ……それを完成させた者に、いかなる「力」が宿るかを知らぬのだ……」

「その鍵を求めて……俺の心の中に入り込んで来た訳か…」

〈遊戯〉の言葉に、男の頭が前に傾く。

「その者の「部屋」を見れば……いかなる「力」が備わったかが解る…私はそれを見極めたいのだ……そして、その「力」が必要とあらば……我が血族に取り込む……」

「!」

知るだけでは無く、知った暁には男の血族に取り込まれる可能性があると言うのか。
取り込むと言うのは、一体どうするつもりなのか、〈遊戯〉の知った事ではないが……あまり歓迎出来る事態ではなさそうだ。
しかし、男に帰れと言ったところで、この分だと大人しく去ってはくれないだろう。

「お前の言う「千年パズル」の力は……確かに俺の部屋に眠っている……だが……そう簡単に教える訳にはいかない!解ってるな……これはゲームだぜ!闇のゲームだ!!」

男を確実に追い払うには、実力行使で諦めさせる事にする。
会った当初言った通り、〈遊戯〉は男にゲームを仕掛けた。

「ゲームのルールは簡単だ!この心の領域のどこかに、俺の「本当の心の部屋」がある……お前はそれを探しだし、「宝」を手に入れる事ができるか……」

「フフ…因みに私には、ある能力が備わっている事を言い忘れていた。私は人の「心の部屋」に入り込み、部屋の「模様替え」をする事で、その者を自由に操る事が出来る……勿論人格を破壊することもな」

「!」

つまり、〈遊戯〉が男の血族に取り込まれるのを拒否しても、意志その物を消す事が出来ると言う訳か。
それにはまず、〈遊戯〉の本当の部屋に見つける必要があるのだが、男はそれを見つける自信があるらしい。

「このゲーム受けてたとう!そして……君の「本当の部屋」を見つけだす!」

躊躇う事なく豪語する男。
余程自信があると見える。
しかし、その宣言に返ってきたのは、余裕めかした微笑。

「さぁて……そう簡単にいくかな……これは、お前が思った以上に危険なゲームだぜ!」

途端に周囲に変化が生じる。
薄暗かった部屋の明度が徐々に増していき、やがて見えた光景に男は驚愕した。
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