遊戯王【銀の月姫】
□第十一話「another」
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日が地平線の彼方に沈みかけて、空は紫と朱のグラデーションに彩られていた。
少し前まで、夕立に見舞われて雨が降っていたとは思えない程、夕日はその朱を如何なく発揮している。
「……」
窓から射し込む夕日が、帰宅して自室の机に突っ伏す咲月の背中を照らす。
『……それは私の台詞だ……何故君も此処に……その目は……!?』
頭の中に再生される、シャーディーの言葉。
あの後遊戯に聞いたが、自分が固まっていた時間は、約一分程だったらしい。
「心の部屋」をさまよっていた十数分が約一分とは、どうやら「心の部屋」と現実は時間の流れが違うようだ。
身体から意識が離れる……それは正解とまでいかなくても、正解に近いと見ていいだろう。
しかし、普通身体から意識が抜けて何処かに行くなど、単純に凄いで済まされる筈がない。
(今回は「千年錠」の力の影響を受けたのかもしれないけど……遊戯に初めて会ったあの時は、どうして意識が身体から離れたの?それに、遊戯の額の目の刻印だって……遊戯が制裁を加える相手にしか見えない筈なのに、何で私にも見えるの?……シャーディーは、私の目を見て凄く驚いてた……どうもしなかったなら、何にそんなに驚いてたの?)
あれほど感じていた空腹感を押しのけて渦巻く不安が、非常に気持ち悪い。
以前から考えない様にはしてきたが、こう何度もおかしな現象に見舞われては、流石に恐怖を感じざるを得ない。
体に、得体の知れない異物でもあるような気分だ。
「……」
机の引き出しから手鏡を引っ張り出して、顔を映す。
咲月を見る少女は、暗く沈んだ顔こそはしているが、別段目におかしな点は見受けられなかった。
(……どうもしないよね)
日本人にならよく有る、ブラウンの虹彩。
どこにでもある様な、平凡な色。
『おかしくなんかない。綺麗だ』
「……」
思い出すと、鏡に映った少女が微笑む。
こんなありふれた目でも、彼は綺麗だって言ってくれた。
……単純かもしれないが、それだけで気持ちが少し安らぐ。
「……貴方の目の方が、ずっと綺麗だと思うけどな」
今は側に居ない彼を思い出して呟く。
そんな時だ。
「……!」
机に置いておいたスマホが、振動する。
電話だ。
ディスプレイには、『遊戯君』と表示されている。
(どうしたのかな)
とにかく電話に出て、スマホを耳に当てた。
「もしもし?」
『あ、もしもし咲月ちゃん、僕だけど今時間大丈夫?』
「時間?大丈夫だけど……どうしたの?」
妙に慌てた遊戯の口調を訝しんで訊ねれば、彼はこう答えた。
『今ニュースで、僕たちが会った美術館の館長さんが……』
「……!?」