遊戯王【銀の月姫】

□第十三話「共に挑む」
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「シャーディー!」

男の暴挙により、半ば強制的に呼び出された〈遊戯〉。
彼は「心の部屋」で対峙した、諸悪の根元であるシャーディーと、今度は現実で相対した。

(遊戯……!)

結局奴の思惑通り、現実に呼び出されてしまった〈遊戯〉を、咲月は眉根を寄せて見上げる。
シャーディーは、何を企んでいるか解らない。
故に〈遊戯〉がどんな目に遭わされるかと考えたら、どうしようもなく不安に駆られる。

「……」

咲月の視線に気付いてか、〈遊戯〉が彼女を一瞥する。
その視線を、彼が自分を案じているのか、それともシャーディーに脅えていると受け取ったのか咲月には解らなかったが、〈遊戯〉は無言で咲月を自分の背に回して、シャーディーを見据えた。

「会いたかったぞ。もう一人の遊戯よ……再び会えた今、君とは決着をつけねばならない……闇のゲームでな!」

「!」

まさか「心の部屋」での一件が、この男を暴挙に走らせたのか。
僅かに〈遊戯〉が顔を顰めている背後で、咲月は聞き捨てならず思わず内心で反芻してしまう言葉があった。

(闇のゲーム……!?)

「貴方……遊戯と勝負したっていうの……!?」

訊ねるとシャーディーの虚無的な視線が、〈遊戯〉から咲月に向けられる。

「……君にとって闇のゲームの存在は、やはり今更なようだな。その通り。私は君が遊戯の「心の部屋」に現れる前に、遊戯と闇のゲームをした。遊戯の力の秘密をかけてな」

「……!?」

(遊戯の力の秘密……!?)

〈遊戯〉が、現代科学では説明がつかない力を有しているのは知っていたが、シャーディーはその力を探る為に〈遊戯〉の「心の部屋」に入ったというのか。
……だが、話を聞く限りだと、どうやら〈遊戯〉は快くその秘密とやらを開示してはくれなかったらしい。
その結果が、闇のゲームという訳か。
咲月の脳裏に、「心の部屋」で見た、床に開いた大穴が蘇る中、シャーディーの目が再び〈遊戯〉を見据えた。

「遊戯……この前は「心の部屋」を探り、君の力を確かめようとしたが……逆に返り討ち……だが今度は、この現実で君の力を試させてもらう!」

「……」

〈遊戯〉の瞳が、シャーディーから操り人形に変えられてしまった杏子に向かう。

「このゲーム受けてたつしかないようだな……」

「ああ。でなければ、この少女は永遠に人形のままだからな……」

「……!」

虚ろな瞳には、今は何も映っていないのだろう。
無表情で立ち尽くす杏子を、元に戻せるのは恐らくシャーディーのみ。
そして、彼の言う闇のゲームに勝たねば、彼は杏子を元に戻さないに違いない。

(杏子ちゃん……!)

〈遊戯〉を呼び出した次は、〈遊戯〉をゲームに強制参加させる為の人質となった杏子。
私情を第一に考えるシャーディーの事だ。これから杏子が危害を加えられない保障はない。
それを考えると、言いようのない危機感が咲月に募る。

「ゲームは今より十分後、屋上で始める!私は先に行き、手筈を整えておく……幸いここは、考古学研究室だけあって、必要な道具は揃っているようだ!」

シャーディーの視線の先にある棚には、ツタンカーメンを模した小さな像がある。
シャーディーはそれを幾つか手に取ると、〈遊戯〉と咲月に背を向けた。

「8時だ!その時刻になったら、屋上に咲月と共に上がって来い!」

「!?」

「え……!?」

突然のシャーディーの言葉に、二人は耳を疑う。
一体どういう事だ。

「待て!お前の狙いは、俺の筈だろう!!」

「言った筈だ。私は咲月にも用があると。……詳しい事は後で話そう」

それだけ言い残すと、シャーディーは杏子を伴って部屋を去る。
自分にも用……。
シャーディーは、まだ何か企んでいるのか。

「……」

立て続きに襲う不安。
シャーディーは、これから何をするつもりなのか。

訪れた静寂。
咲月は、壁にかかった時計を見上げる。

現在、PM7時50分―――
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