テニプリ 久しぶりに再会した幼馴染がホ○に目覚めてたんだけど【一氏ユウジ】

□第三話「滲む思いで」
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四年前、8月上旬。
当時小学五年生だった榛名は悩んでいた。
それは

「……ただいま」

夕方、遊びに出かけた榛名が帰ってきた。
ガチャンと玄関のドアが閉まる音が重々しい。

「おかえり。お腹減った?」

「……うん」

玄関にまで母が榛名を出迎えに来たが、一目見て娘の浮かない顔に気づく。
まさか

「……また言えんかった?」

「……」

無言で首肯すると、榛名は靴を脱いで家に上がる。
自らの隣を通っていった娘に、母は溜め息を吐いた。
家庭の事情だから、仕方ないと理解しているようだが、それでも友人に今月下旬には引っ越さねばならないと言い出せず悩む榛名に、母は申し訳なく思う。

(……せめて、爺ちゃん婆ちゃんが近くに住んどったら、アンタだけ預けて転校せんでもええように出来るんやけど)

生憎母の両親は、大阪にいてもここからは離れているし、夫の両親に至っては大阪に住んではいない。
いずれにしても、今通っている小学校にはもう通えないのだ。

(ごめんね……榛名)









夕飯ができるまで、自室で待つ事にした榛名。
夕日が部屋に差し込む中、榛名はフラフラとベッドに近づくとその上に倒れ込む。

(……また言えへんかった)

長い溜め息が出る。
遅かれ早かれバレる事とは解っているが、いざ言おうとすると梓や香奈と離れ離れになるという現実が肩に重くのしかかって、真実を口にするのを妨げる。
また今度遊ぶとき、また次言おう。そうやって自分を甘やかして、大分前から解っていた事を言えずにいる自分は意気地なしなのだろう。
だが、ここまで思い切れないのはきっと

(皆と……ホンマは離れたないんや……無理やって解ってるけど)

行きたくないなんて言って、両親を困らせる訳にはいかない。しかし本当は転校なんか嫌だ。
現実と本心の板挟みになり、榛名は途方に暮れていた。


そんな時。


―――ガラッ



「おーい!ネクラおるー?」

人の気分なんて知る由もないのだろう、夏場故網戸となっている窓から、遠慮なしに呑気で聞き慣れた部屋に入ってきた。

「……」

ベッドから身を起こすなり、榛名は網戸を開け放って抗議した。

「誰がネクラや!!」

憤然とした榛名の異議を、榛名をネクラと呼んだ張本人である一氏ユウジは、対向する窓辺から鼻で笑い飛ばした。

「ハッ、そんなんお前以外誰おんねん」

勝ち誇っているユウジ。
その笑いがうざかった。

「あっそ。ほなら私「お前」って名前ちゃうから知らんわ。ほな」

そうあっさり言い捨てた榛名は、これ見よがしに網戸どころか窓も閉めようとしたが、ユウジがそれを慌てて制する。

「あー!ちょー待て!!」

「……何」

「……ネクラな上に屁理屈か」

「じゃあな」

「ちょ、待て!ホンマにウソ!!」

「……何やねん」

次はないぞと目で警告してくる榛名に、ユウジは右手に持っていた夏休みの課題を見せた。

「算数解らん所あんねん。手伝ってや」

「……‥」

やれやれ。

「……世話の焼ける河童」

「誰が河童や。ネクラのクセに―――」

「あ”?」

「何でもない」
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