遊戯王【銀の月姫】

□第二話「再会と羽化」
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「……ぇ。……ねぇ……しっかりして涼宮さん!!」

「っ!!?」

肩を揺さぶられて、咲月は漸く覚醒した。

「……あ、れ?」

バクバクと心臓が早鐘を打つ中、咲月は目を瞬かせる。
目の前に見えるのは、心配そうな顔をして自分を見ている、傷だらけの遊戯、城之内、そして本田の顔だった。

「……武、藤君……!?」

「うん。……大丈夫?」

咲月の肩を掴んだまま、眉を顰める遊戯。
……これは、どういう事だ?
自分は、さっき牛尾が化け物に食われたのを見て、しかも遊戯に似た誰かに会って、挙げ句学校の屋根から落ちた筈だ。

「……本当に」

「何?」

「君……“武藤君”だよね?」

「え?」

まさかの問いに遊戯はキョトンとしたが、城之内が入ってきた。

「遊戯以外に誰に見えるんだよ?」

「……」

今一度、遊戯の顔を見る。
大きな瞳に、小柄で細身の体型。穏やかで幼さが残る雰囲気。
“彼”ではない。今目の前に見えるのは、正真正銘咲月のクラスメートである“武藤遊戯”だ。

「……ゴメン。何か、変な夢見て混乱してる……」

「夢?」

咲月の単語を反芻した本田に、咲月は頷く。
呆気に取られている三人の前で、咲月は頭を整理した。
そうだ。夢だったんだ。牛尾が化け物に食われたのも、遊戯に似た誰かに会ったのも、屋根から落ちたのも、凄まじくリアルだったが、全部夢だったのだ。
そうすれば、あの理解不能な超状現象の説明がつく。その証拠に、自分の背後にはぶつけた木がそびえている。

「気絶してる時にも夢なんか見るんだな」

「……みたいだね」

自分は、脳のメカニズムについてはからっきし無知だが、見たという事はそういう事だろう。

「頭、ぶつけた所大丈夫?」

遊戯に訊ねられて、咲月は後頭部に触れる。
少々鈍痛がして、盛り上がった感触がある。
どうやら、たんこぶが出来ているようだ。

「……ちょっとたんこぶ出来てるけど……平気」

「! 本当に大丈夫?」

「うん。冷やせばどうって事ない。……ありがとう」

「ううん。……でも良かった。起きなかったらどうしようって、心配だったんだ」

「……大袈裟」

クスリと笑う咲月。
その様子を見た遊戯は、少々目を丸くしていたが、呆けている暇はなかった。

「つか遊戯。いつまで涼宮の肩掴んでんだ?そんなに手に馴染むのかよ」

「!?」

ニヤニヤしながら茶化す城之内の言葉に、遊戯は我に返った。

「ちょ……城之内君!そんなんじゃないよ!ゴメン涼宮さん!」

遊戯は、慌てて手を剥がす。
顔が赤くなっている様に見えるのは、気のせいだろうか。

「いい。気にしてないから。……それより、皆は大丈夫?」

咲月の問いに、三人は心配するなとばかりに笑って見せた。

「平気に決まってんだろ。な、本田、遊戯」

「おう。お前よりずっと頑丈に出来たんだ」

「大丈夫だから、心配しないで?」

「……本当に?」

「本当だって!ほら!」

城之内は、隣の遊戯を、いきなりくすぐりだす。

「!?城之内君、ちょ、止め……ハハハッ!あっ、痛い!笑わせないで!」

「な?」

ニカッとする本田に、咲月は「もう……」と困った様に笑う。
遊戯は未だにくすぐったさに悶えていたが、そんな中咲月は彼の首に下がる金色に気付いて瞠目した。
パズルが、完成している。
だが肝心なのはそこではない。肝心なのは、その形が夢に出てきた“彼”が下げていたのと同じ形をしていた事だ。

先程地面に転がっていたのは見たが、遊戯が危機的状況にあった為、悠長に観察してはいなかった。つまり、完成する直前のパズルの状態を咲月は知らない。

夢と現実の完成型が同じなのは偶然なのか?
あのパーツを嵌めた事で完成したのか?

「……パズル出来たんだ?」

呟くと、城之内の手が止まった。
くすぐったさから解放された遊戯は、息を乱しながら視線を落とした。

「うん……城之内君がくれた最後のパーツはめ込んだらね」

「……遊戯、その事なんだけどよ」

「何?」

罰の悪そうな顔をする遊戯に、城之内は意を決したのか、突然頭を下げた。

「悪かった!」

「!?え、いきなりどうしたの?」

「お前のパーツ……俺、昨日水路に捨てたんだ。……お前の宝物だって事、知ってたのに」

「!!」

目を丸くする遊戯。
間髪を置かずに、本田が割り込んできた。

「遊戯、悪いのは城之内だけじゃねぇ!俺も面白がって止めなかった。だから……!」

「本田君……」

「……武藤君」

目を瞬かせている遊戯に、咲月は夕方の事を話した。

「確かに城之内君と本田君は、貴方の宝物を捨てた。でも、2人とも、貴方の宝物を今日の夕方一生懸命探してたの。私、2人を見てた。本当に、真剣だったんだよ」

2人が、今までの事を反省しているのは、彼等の態度で分かった。
許せと迫るつもりはない。
ただ、2人が改心したんだという事を、遊戯に解ってほしい。
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