遊戯王【銀の月姫】
□第二話「再会と羽化」
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咲月はその一心で遊戯に言い募る。
「涼宮さん……」
昨日まで言い合いになるような関係だった2人を擁護する咲月に、遊戯は少々驚いていたが、三人の真剣な表情を見て、口元を綻ばせた。
「……顔上げて、城之内君」
「!!」
「本田君も……2人の気持ちは解ったから……ありがとう。見つけてくれて。お陰でパズル完成出来た」
「……怒ってねぇのか?」
責められる覚悟だった城之内は、眉を顰めるが、遊戯は微笑んで頷く。
「僕の為に、水浸しになってまでパーツを見つけてくれた。それに、僕を助けにも来てくれた。……だから、十分だよ。城之内君も、本田君も……涼宮さんも、ありがとう」
「……」
「……」
そんなにあっさり許されるとは思ってなくて、顔を見合わせる城之内と本田。
呆気に取られていたのは咲月も同じで、思わず訊ねてしまった。
「……どうして、私にまでお礼言うの?」
遊戯は、咲月の制服を見た。
「だって、涼宮さんも、探してくれたんでしょ?制服、城之内君達と同じ様にぬれてた。見てただけなら、水路には入らなくていい。だから解った。涼宮さん……昨日も今日も、僕を助けてくれた。……嬉しかった」
「……」
素直に紡がれる、感謝の言葉。
向けられる真っ直ぐな気持ちに、咲月は面食らう。
(もう……
適わないな……)
たった二日間しか接していないのに、彼の優しさも純粋さも伝わってきた。
本当に、彼の心は暖かい。
(出来たパズルの形が夢と同じだったのは気になるけど……よく考えたら大体の形は知ってたんだよね。頭の完成図が、現実とたまたま同じだったんだ。そうに違いない)
もう、あの夢の事は忘れよう。
結論づけて、咲月も遊戯に微笑み返した。
翌朝。
ぬれた制服は、週末にクリーニングに出すとして、今日は予備の制服を着て登校する。
未解決の牛尾の件はどうするかと、城之内達と昨日相談した結果、何をされるのか解らない以上、遊戯を1人にしないでおく。そして万が一襲われたら、今度こそ教師に知らせ、最悪警察を呼ぶ方針に決定した。
ところが、事態は急変する。
何と、昨夜牛尾が住宅街で錯乱状態になっている所を、警察に保護されたのだという。
そして、近いウチに精神科病院に入院になるとの噂がたっていた。
(……どういう事なんだろう)
机に頬杖を付きながら、咲月は考えていた。
実は牛尾をどうするかについて話している間、城之内達曰く、自分たちも目を覚ましたのは咲月を起こす少し前だったらしく、その時にはもう彼の姿は無かったのだという。
遊戯の気を失う直前の証言で、牛尾はもう帰ったのだろうと咲月達は結論づけたのだが、実際はそれどころでは無くなった様だ。
一体牛尾に何があったというのか。
(……考えても解る訳ないか)
ただ事ではないが、自分が気を失っている間に牛尾が何をしていたかなんて知る訳がない。
考えるだけ無駄だろう。
(けど)
まさか、あの夢と何か関係があるのだろうか。
(……そんな訳ない)
夢は夢だ。現実ではない。
そもそも、あんなのが現実で起きる筈がない。
咲月は考えるのを早々に放棄した。
「………」
斜め前の席に座る遊戯を見る。
授業中ではあるが、コクリコクリの前に傾く頭。
牛尾の危機が一先ず去った事で安心したのか、日光を浴びてまどろんでいる。
(……もう、あんな目に遭わないといいな)
一昨日から昨日にかけて、色々あり過ぎた。
それまでも、彼には色々あったのだろうが、この二日間程の大事になったのは、恐らく初だろう。
城之内達とも和解した事だし、遊戯が平穏な生活が送れる事を咲月は祈った。
それから数日後の放課後。
「これ借ります」
「はいはい」
図書室に寄った咲月は、小説の貸し出し手続きが終えるのを、カウンターの前で待っていた。
職員の女性、日高はてきぱきと作業を進めながら、咲月に話しかける。
「最近昼休みには全然来なくなったわね。例の友達とは上手くいってるのかしら」
「友達って……だからクラスメート……」
「顔、にやけてるわよ。はい」
「にやけてって……そんな顔してません」
「してる。楽しいって、顔に出てる」
「……」
本を受け取って、咲月は自分の顔に触れる。
そんなに笑っているだろうか。
「あ、いた。涼宮さん!」
「!!」
声がして顔を上げると、出入り口に遊戯と杏子、しかも城之内と本田も立っているのが見えた。
「皆……どうしたの?」
揃いも揃っての登場に、咲月は呆気に取られた。
「バスまでまだ時間あるから、何かお勧めの本教えてもらおうかなって」
「うん」
杏子の言葉に首肯する遊戯と、その隣でにやけている城之内達。