遊戯王【銀の月姫】
□第五話「宴と花火」
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その後話し合った結果、催し物は
「人間青ヒゲ危機一発」
「瓶倒し」
「的当て」
の三つに決定。
青ヒゲは近くのワイン工場から樽を調達する事にして、青ヒゲマスクやナイフは材料費二万円で作成。
瓶倒しは牛乳瓶を使用、ボールも学校で用意出来るので材料は無料。
そして最後の的当ては、銃は本田のエアガンを借りるとして、景品やペンキ、電飾は予算三万で用意する。
そして運が良い事に、「場所取りくじ引き」で杏子が一番人気があると有名な場所を引き当てた。
これなら、お客さんが沢山来てくれるかもしれない。
幸先のいい出だしも相まってか、遊戯は人一倍張り切って準備をしていた。
そして三日後。
「……」
文化祭の準備で賑わう声が届いてくる廊下を歩く遊戯。
その手には、缶ジュースが入った箱があった。
(先生からの差し入れ……咲月ちゃん達にも届けないと)
カーニバルゲームの会場は外なので、殆どの生徒は教室を出払っている。
だが、衣装作りを担当するメンバーは教室に残って作業中だ。
そのメンバーには、咲月も入っている。
(咲月ちゃん……確か青ヒゲの衣装作ってたよね。何処まで出来たかな)
彼女の裁縫の腕前は知らないが、自ら係りに立候補したからには期待してもいいのかもしれない。
どんな出来映えになっているのかワクワクしながら歩を進めていくと、何やら見覚えのある集団が前方から近付いてくる。
(あれ……あの人達……)
確か咲月と同じく、衣装係りのクラスメート達だ。
作業をしないで何処に行くのだろう。
疑問に思っていたら、向こうから話しかけてきた。
「あれ、武藤君どうしたのそれ」
クラスメートの女子の1人が、遊戯の手にある缶ジュースに目を落とす。
「あ、これ先生からの差し入れ。衣装係りの人達にも届けて来いって」
「! そうなの?」
事情を聞いた女子達は目を嬉しそうに輝かせた。
「やった、ありがとう。もらっていい?」
「うん、いいよ。はい」
箱を差し出すと、女子達は次々とジュースを取っていく。
だが、ジュースを取っていく女子達の中に咲月の姿はない。
「ねぇ……咲月ちゃんは?」
女子達曰く、自分たちは休憩ついでに外に散歩をしに行こうとしていたのだと言う。
そして咲月はと言うと
(まだ教室に残って作業してるのか……)
真面目なんだか、根を詰めすぎていないと良いのだけど。
そう思いつつも、教室の前に辿り着く。
「……」
引き戸の取っ手に手をかける。
だが、何故かひと思いに開けられない。
……おかしい。
(何でだろう……緊張してきた)
実におかしな話だが、引き戸を開ける心の準備が出来ない。
此処に……教室に一度脚を踏み入れれば、彼女と二人きりになってしまうからか?
(……いや、何考えてるんだ僕は。今までだって二人で一緒に帰ったり、喋ったりしてきたじゃないか。なのに何で……)
今は、此処まで意識してしまうのだろう。
思考を巡らすも、まるで答えは思い浮かばない。
(ああもう、考えるの止めよう。そもそも、二人きりになる為に来たんじゃない)
差し入れを届けに来たのではないか。
そうだ、やましい事など何一つ無い。
遊戯は意を決すると、顔を上げ引き戸を開けようとして
そのまま動きを止めた。
「……」
引き戸にはめ込まれたガラス越しに、机に腰掛けて、白い青ヒゲの衣装と思しき布に針を通す咲月の姿が見えた。
晴れた午後の日の光を浴びる肌は、絹の様に白くて、日本人離れしている様にすら思える。
だが、不思議な事に不健康には見えず、寧ろそれが彼女の何処か神秘的な雰囲気の要因にすら見えた。
艶やかな黒髪。目まぐるしく動く繊細な指。
教室を満たしている咲月の独特の空気が、ガラスを通して此方にまで伝わってくる様な気がする。
廊下を歩く途中まで、外からあれほど聞こえていた生徒の声が、今は聞こえない。
その代わり、自らの胸からこんな音が聞こえる。
ドキン……ドキン……
小鳥の様に跳ねる心臓。
自らの鼓動をハッキリと感じる中、遊戯は教室に来た目的さえ忘れて見入っていた………矢先
伏せられていた筈の咲月の目が、不意に遊戯の方を向いた。