遊戯王【銀の月姫】

□第八話「we trust you」
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放課後。
鼠色一色に塗り変わった空の下、三人は本田の案内で城之内の家を目指していた。

「本田君、中学生の時から城之内君と知り合いだったの?」

「ああ」

「!」

遊戯の問いに、本田の首は前に傾く。
そういえば、2人は入学当初から連んでいた。
最初から仲が良かったのは、そういう事だったのか。

「そっか……私たちより、付き合い長いんだね」

「一応な。けど、俺彼奴ん家殆ど行った事ねぇんだよ……」

「……!」

見上げる本田の顔は暗い。
一体何が、彼の顔を曇らせたのだろう。
一瞬自分がマズい事を言ってしまったのかと疑ったが、その答えはじきに解った。

「! 確かこの団地だぜ!昔一度来た事があんだ」

「……!」

不意に前方を見上げた本田の視線を辿ると、そこには古びた団地がそびえ立っていた。

「城之内君……ここに住んでるの?」

「ああ。確か三階の一番端っこだった筈だ」

本田は視線を下ろすと、直ぐ近くにある団地の階段に近付く。
三人は、本田に続く形で団地に入って行った。






階段を上り三階に辿り着くと、『城之内』と書かれた表札が付いたドアが目に入ってくる。
どうやら、ここのようだ。
本田の指がチャイムを鳴らす。
だが、反応がない。

「スイマセーン!!」

今度はノックしてみるが、これも反応なし。

「誰もいねーのかな……」

静寂のみが帰ってくる状況に訝る本田は、試しにドアノブを捻ってみた。
すると予想外な事に、鍵がかかっていない事が判明する。

「鍵かかってねーぞ……ちょっと覗いてみっか……」

「!」

「ねえ……留守かもしれないし止めようよ……」

人の家を覗き見するなんて、抵抗がある。
故に渋い顔をする杏子と咲月だが、本田は「覗くだけだ」と言い張って、ドアを微かに開けてしまった。

刹那

「っ!?」

「ヒッ!!」

ドアに何かが飛んで来て、派手な音を立てて砕け散る。
落ちた飛来物の欠片と、床を濡らした液体のアルコールの香りに、一同は酒入りの瓶がドアに投げつけられた事を察した。

「てめ〜このクソガキ〜二日も何処ほっつき歩いてやがったあぁ〜」

「……!」

呂律があまり回ってない声がして顔を上げると、靴を履いたままテーブルの上に投げ出された足と、テーブルの上や床に散乱している酒瓶と空き缶が見えた。
声の主はしゃっくりを繰り返しており、雰囲気的に悠長に話を聞ける状態ではない。

「失礼しました!!」

身の危険を感じた一同は、ひとまずその場から退却する事にした。





階段を駆け下り外へ出ると、遊戯は安堵の息を吐いた。

「吃驚したぁ〜」

「ね……今の……」

杏子が何を聞きたいのかは、直ぐに解った。
本田は眉根を寄せて話す。

「ああ。彼奴の親父さ……昔からあの調子らしい……。あれが……彼奴が家にダチ上がらせない理由だ……」

「……」

咲月の視線が地面に落ちる。
様子から察するに、城之内の父は泥酔状態にあるだろう。
昔からあの様子では、城之内が友達を家に上がらせないのも頷ける。
本田の顔が険しかったのは、こういう理由があったからのようだ。

(城之内君……)

垣間見た城之内の家庭環境。
親子関係が上手くいっていないと断言は出来ないが、果たしてあの家は城之内にとって安らぎの場所だと言えたのだろうか。
学校の出席は皆勤賞だった城之内。
もしかしたら彼は、学校の方に居場所を見出していたのかもしれない。

「……城之内君、家に居なかったね」

ポツリと咲月が呟くと、本田は顔を顰めた。

「ああ。親父さんが、二日も家に帰ってねぇって言ってたっけ。何処行ったんだ……彼奴」

「……」

昨夜会ったあの時、彼は既に家に帰っていなかったという事になる。
あの時感じた、城之内の違和感。
やはり今回の失踪と、何か関係があるんじゃないか。
疑念が増す中、遊戯の提案で一同は城之内を探しに向かった。
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