遊戯王【銀の月姫】

□第九話「砂漠の地よりの来訪者」
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そして2日後の日曜日。

「皆揃ったみたいね!」

「おー!」

「ほほ…」

予定通り、美術館の前に集合した遊戯達。
ところが早速行こうと移動をしかけた矢先、双六に待ったをかけられる。

「ああ、まだ行っちゃいかん」

「え?何で」

立ち止まった遊戯が、恐らく全員が思ったであろう疑問を口にする。
双六は辺りを見渡しながら、その理由を話した。

「いや…実はワシの友人とも、ここで待ち合わせをしとるんじゃ…だからもうチョット待って!」

「そうなの?…皆、それでもいい?」

「大丈夫よ」

「私も問題ない」

「俺も右に同じ」

「俺もそんぐらい全然待てるぜ」

「そっか。ありがとう皆」

全員の快い承諾に、遊戯の顔に安堵の笑みが浮かぶ。
双六の友人が何時来るかは解らないが、出来た空き時間に咲月は見た瞬間から気になっていた事を遊戯に聞いてみた。

「ねぇ遊戯君……さっきから思ってたけど、何で日曜なのに制服着てるの?」

「え?」

キョトンとする遊戯。
実は、今日は休日であるにも係わらず遊戯の格好は何と制服。
正直、何故だと思わずにはいられなかった。

「そうだぜ。日曜くらい学ラン止めたら?」

便乗してくる城之内の顔も渋い。
やはり、休日に制服を着ると言うのは珍しいのか。

「……やっぱ変?」

遊戯本人も解っていたのか、顔を曇らせる。
しかし解っていたなら尚更、わざわざ制服を着てきた理由が知りたくなる。

「えっとこれは……」

遊戯がまごまごと、理由を喋ろうとした時だった。

「武藤さーん」

「!」

人混みを避けて、1人のスーツ姿の男性と、帽子を被ったふくよかな体型の男性が此方に向かってくる。
その片方の姿を見るなり、双六はパッと顔を明るくした。

「はは、来よった来よった!」

双六の前にたどり着くと、頭を下げて挨拶をするスーツ姿の男性。
彼が、例の友人か。

「どーも。ご無沙汰してます!」

「いやぁ〜此方こそ展示会に招待して下さって、感謝しとりますわい」

「……」

双六と話す男性の顔を眺める咲月。
もう1人は知らないが、このスーツ姿に口髭を生やした中年男性……どこかで見たような……

「あ……」

思い出して、ついそんな声を漏らす。
そうだ、この人が

「皆にも紹介しよう!こちらが吉森教授じゃ」

「初めまして」

会釈する男性、もとい吉森教授の登場に、咲月を覗いたメンバーは目を丸くした。
てっきり美術館の中で会うとばかり思っていた。

「おおー今や一躍時の人だぜ!」

ここ2〜3日で、メディアに引っ張りだこな吉森教授本人に会った城之内は少々興奮気味だ。
まるで芸能人にでも会ったかの様な反応。
しかし、吉森教授にばかりかまけてはいられない。
双六は彼と一緒に遊戯達の前に現れた、もう1人の人物を見やる。

「そちらの方は……」

「ハイ!今回の展示会の主催者であり、発掘の資金援助をして下さった、美術館の館長の…」

「金倉です!私の美術館にようこそ!」

金倉は双六と握手を交わす。
そして手を離すなり、吉森教授に耳打ちした。

「ところで吉森君……例のモノをみせてもらえんか」

「あ…は…ハイ…」

金倉が離れると、吉森は双六に切り出した。

「武藤さん…前にお聞きした「千年パズル」を解いたお孫さんというのは…」

「ほほ…そーいえば話とったか…」

「…え…!?」

全く聞いていない話に遊戯はポカンとする。
固まっていると、吉森教授と目が合った。
その目線が、徐に彼の首から下がっている千年パズルに止まる。

「! 君が遊戯君か!」

気づいた吉森教授は笑顔を浮かべたが、彼以上に歓喜している者がいた。

「それかー!!噂の「千年パズル」というのは!」

「!」

大興奮した金倉が、遊戯に詰め寄る。
その勢いに驚いて遊戯が後ずさるのも構わず、金倉は彼に千年パズルを見せてくれと頼み込む。

「あ…ハイ…どうぞ…」

圧倒され気味に千年パズルを外すと、遊戯は金倉にパズルを渡す。
金倉は受け取った千年パズルを顔の前に持ってくると、目をギラつかせた。

「こ…これは凄いですぞ〜!古代エジプト史に残る文化遺産だ〜!!」

「金倉さんは、美術商を専業になさってるから、目は確かだよ」

「そうなんですか…」 

そんなに価値があるとは思ってなくて、遊戯は吉森教授の言葉に少々意表を突かれる。
しかし、惚けている暇は無かった。

「遊戯君お願いだ!!この「千年パズル」を、今回の発掘展で是非展示させてくれないか!!」

「え!!」

想定外の申し出に、遊戯は盛大に面食らった。
まさか、こんな事を頼まれるとは。
驚く遊戯だったが、金倉はどうしてもと頭まで下げて来る。

(困ったなぁ…これは僕が一時も離したくない宝物なのに……)

それ程までに、遊戯は千年パズルに愛着を持ってしまっていた。
しかし、何度も頭を下げられては、無碍に断るのも気が引けてしまう。
よって

「そ…それじゃあ今日一日だけなら…」

条件付きで、遊戯は金倉の頼みを聞く事にした。
これが、彼に出来る精一杯の譲歩だ。

「そ…そうか!一日だけで結構だよ!!」

遊戯から許可が下りるなり、金倉は歓喜の笑みを浮かべる。
異様なまでの喜びよう。

咲月はそれを、彼が文化遺産を愛するが故の笑みだと思いたかった。
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