リクエストされてみた

□週一の楽しみ
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夏休みの騒動が終わった後、俺はちょくちょく警部の家に行っていた。
と言っても勝手に転がり込んでいるだけだが。
ピッキングでドアを開け、勝手にお邪魔する。
別に泥棒に来たわけではない。ただ、自分の家にいるより落ち着くだけだ。

「きったねぇな・・・。」

タバコの溜まった灰皿やビールの空き缶が散乱している。
中には飲む予定だったのか開けてない缶もそのままだった。
することもないので片付けていると、雨が降り出した。
まさかと思い外を見ると見事に放置された洗濯物があった。
濡れないうちに取り込んで畳んでたんすに居れる。
一段落ついて俺が警部の家族になった気がした。
警部が父さんで、俺が息子?だったらちょっと良いな。
ここまで家事をしてしまったら後することは決まっている。



今日もルパンの手掛かりは無し。予告状の報告も来ていない。
最近は週に一回の休みが唯一の楽しみだ。
週末の今日特に何がある訳でもないが、少しはゆっくりできるだろう。
疲れをぶら下げながら家の前に立つと中から何かいいにおいがする。
違う家かと表札を確認するが、ちゃんと銭形と書いてある。
そっと中に入ってみると、奥から聞き覚えのある声が飛んできた。

「おかえんなさーい!以外にはやかったっすね。」

「お前、ここで何を・・・。」

「あ、お風呂準備してますよ?」

言葉を遮り笑顔でそう言う。流されるままに風呂まで行くと着替えまで用意してある始末だった。
疲れていたのもあり、文句を言う前に風呂に入る。
湯船につかっていると亮介の音痴な鼻声が聞こえてきた。
調子っぱずれなその声は一度日本に帰って来た時のあいつからは想像もできないほどほのぼのとしていた。
トゲが取れて丸くなったというのが一番当てはまった感想だろう。
そうではなく叱らねば、本来しなければいけない事を思い出し急いで上がる。

「もうすぐご飯出来ますよ〜。」

着替え終ると台所からそう聞こえた。
私は台所へ向かうと、焼き魚の良い香りが鼻を突いた。
片付けられた部屋にはすでに二人分の箸が準備されている。
その片方に座ると、亮介は冷蔵庫から冷えたビールを持ってきた。

「先に飲んでててもいいっすよ。すぐ持ってくるんで。」

そしてその言葉通りに私の前に夕飯が並ぶ。
ここまでされると流石に叱りにくい。
しかし、こいつは自分の先輩の息子であって・・・。
目の前でニコニコしている亮介に気まずく声をかけた。

「何ですか?」

「どこから言えばいいのか分からんが、どういうつもりだ?」

「帰ってきて一人だったら寂しいだろうと思って。」

ダメだ。絶対に計算している。
こんな一見無害そうなこいつもルパンと一緒にいた奴だ。
こんなことをするのもこんなことを言うのも気まぐれだ。
それでも心はうれしさで小さく震えた。

「食べましょ!今日のもおいしくできたんすから。」

「そうか、・・・頂きます。」

そう言って一口含むと箸は止まらなかった。
久しぶりの暖かいご飯に酒に合う魚。
気付くと無言で食べ続けていた。

「・・・あ、すまん。」

「いえ、美味しそうに食べてくれて嬉しいっす。」

亮介は笑った。それはもう子供らしい笑い方で本来の思考をしばらく忘れた。
何だろうか、この気持ちは。
妻を持てばこうして毎日私の為に飯を作ってくれる人が居るのか。
仕事の間は家事をして、帰れば笑いかけてくれる。
そんな存在が私にもあれば生活も変わるだろうか。
食べ終わって皿を洗う亮介の後ろ姿を見ながら考えた。
・・・いや、待て待て。今こうしてくれたのは全て亮介だ。
ここで思うべきはせめて出来の良い息子と言ったところだろう。
亮介を妻と変換してしまった自分にとことん呆れる。

「亮介、ありがとう。」

「いいっすよ。家に居ても寂しいっすから。」

こいつがどんな思惑かは分からない。
本当の事を言っているかも知れないし嘘かも知れない。
が、亮介がまだ大人でないことは確かだ。
そうなれば、私がしてやれることは一つ。
間違っていれば叱るだけ。それ以外口を出す必要はない。

「次からは来るときに一言入れろ。不法侵入だからな。」

「はーいはい。」

曖昧な返事を返す亮介は楽しそうに笑っていた。
これが消える時は二つ。苗字が危険な時、母親に会う時。
せめて笑顔の時は、と考える私はもうこいつを甘やかしているのかと考えてしまう。
そのまま背中を眺めていたが、無性に安心してしまう。
・・・酔いが回って来たか。
皿洗いが終わった亮介を呼んで適当に座らせる。

「今日はどうするつもりだ。」

「帰れとは言わないんすね。」

意外そうに言われてやっとこいつの考えが見えた気がした。
誰もいない家を抜けてここに来て、家事をして、
帰れと言われる可能性を感じながら俺に尽くした。

「ここまでされてそんな事言えるか。今日も布団はないが・・・。」

「大丈夫っす!俺、どこでも寝れるんで。」

今日くらい泊めてやってもいいか、と酔った頭で思った。
寝間着だけは準備をして、風呂に入らせた。
その後はいい具合に飲んで寝る準備をし、眠りに落ちた。
ここ最近で一番心地よい眠りだったが、背中の感触で目が覚めた。
時計を見ると一時を回った頃。背中をモゾモゾと何かが当たっている。
そっと振り返って見ると、亮介が寒かったのか布団に半分入ってきていた。

「・・・全く。」

自分の身をずらし、中に入れてやる。
寒いならそう言えば何か用意したというのに。
目の前で寝息を立てる間抜け面をみてふと癒しを感じる。
はっと我に返りすぐにその考えを払い除けた。
こんな図体のデカい男のどこに癒されたのか不思議でたまらない。
さっさと寝てしまおうと寝返りを打って目を閉じる。

目を開けると、味噌汁の良いにおいがした。
起きてみると亮介がもう台所にいた。
寝間着のままお玉を持って味噌汁の味見をしている。

「おはよう。」

「あ、おっはようございます・・・。」

声が裏返っているが、何かあったろうか。
台所の方に向かうと亮介は避けるように距離を取った。
顔もそむけている。どこか動揺を隠せていないと感じた。

「き、昨日俺、警部の布団に入ってましたね・・・、すみません。」

「あぁ、入ってきた。」

う、と気まずそうな声が聞こえる。本当に寝ていたことにびっくりだ。
亮介は顔を真っ赤にしながら下を向いている。

「俺、朝飯作ったら帰ります。」

口をついたように言うと、すぐに手を動かし始める。
こいつが今考えていることくらいわかる。
つまらん事だと言い切れるほど確信が持てる。

「毎週水曜なら早く帰れる。また来い。」

「・・・うん。」

顔が真っ赤なまま朝食を出して、バタバタと着替えてさっさと出て行ってしまった。
本当に愛着がわいてしまう怖さを痛感する。
敬語もまともに話さない上に素行も悪い。考えも甘いし、感情で行動が流される。
初めこそその態度に怒りを覚えたが、こう付き合ってみると未熟な方が良い。
あそこまで全てが感情に出る奴はついつい可愛がりたくなってしまう。
次の水曜には布団でも買っておこう、と考えながら味噌汁をすすった。
今思えば案外うまい料理を作るもんだ。

気を抜くとまたまだ見ぬ妻に変換する自分がいて寒気がする。
あいつは男で、先輩の息子で、何よりルパンと一緒にいた奴だ。
全てを覚悟してかからなければ出し抜かれる可能性もなくはない。
そうして週一で来る亮介に色々と準備することが増えた。
結局の所日々に張りが出来たようなもので妻より良いかも知れない。
そうして新しい楽しみを手に入れた。











<あとがき>

付き合ってはいないんです。
警部からすれば寂しがっているから家に招いてる程度なんです。
リクエスト半分解消ということでいつか後半あげます。
まぁ、一線超えるでしょうからご注意してご覧になってください。



 

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