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□それでも愛しい人
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「分かったよ!!もう俺は知らない!!一生仕事に生きてろ!!」




つい二時間前、音也はそう言って楽屋を飛び出していった。

蝉の鳴き声が止まない八月の初め。
外は太陽がギラギラ照りついている中、トキヤは今日も音也と涼しいスタジオで円滑に仕事を進めていた。

そう。
事の始まりはそのスタジオで仕事が終わった楽屋。

何時間もある仕事がやっと終わり、楽屋でソワソワ、ニヤニヤしている音也に一言喝を入れたのは、ゲストとして共演していた嶺二ではなくトキヤだった。




「音也、仕事が終わったからと言って浮ついているようではミスしますよ」

「ミスはしないよ。それに、今日ぐらいは浮ついてしまっても…」

「今日ぐらいは、って…。あなたはそう言っていつも細かいミスをするでしょう」




どうしても浮ついてしまうと言う音也に賛同ができないトキヤは、いつものように小言を続ける。

それを見かねた嶺二は「ストーーーーップ!!」と仲介に入ったが




「トキヤ、今日が何の日か分からない?」

「仕事以外に何があるのです。あなたが言うから午後からはなるべく仕事を入れず予定を空けてましたが…」

「俺が言ったからって…。仕方なしに空けたって言いたいのかよ!?」

「間違ってないでしょう」

「……!!俺がどれだけ今日のために色々考えてたと思ってんだよ!!」




トキヤのあまりの鈍感さに嶺二も呆れてため息が溢れるほど。
結局この後盛大に大声で大ゲンカをして今に至る。

いつもなら笑って「ごめんごめん」と音也の口から返ってくるはずだった。
なのに今日は違ったのだ。

間違ったことを言ったとは思っていない。
だが、音也が何故あんなに怒って怒鳴って楽屋を飛び出していったのかが分からない。




「おとやんが怒るのも無理ないと思うよ」

「何故です?私は間違ってはいないでしょう」

「うん、いつもならね」




トキヤの言葉に嶺二は意味ありげにそう答えた。
だからと言って今のトキヤに分かるかと言えばそうではなく。




「はぁ……。トッキー、誕生日はいつだい?」

「は?それは………、あ……」

「仕事に真面目なのはトッキーの良いところ。でも、真面目すぎてプライベートが疎かになるのが悪いところだよ」




嶺二の言葉で初めて気付いた。

今日、8月6日はトキヤの誕生日。
音也がニヤニヤ、ソワソワしてたのも、予定を空けていろと言っていたのも、全ては今日がトキヤの誕生日だったから。




「おっと!!悪いけど僕ちんは次の仕事があるから行くよ!!電話でもなんでもしておとやんに謝りなよ」

「寿さん…」




一人になった楽屋でトキヤは床に座り込み、その場から動けなかった。













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