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寡黙と憂鬱に咲く[18]


36.
学校の連中に対して距離を感じるのは、今に始まったことではない。
自身の根本とされる部分を曝け出せないでいるこの平穏な環境は、退屈と憂鬱に塗れていた。
仄かな陽だまりには、たまに浸っているくらいで十分だ。闇が大きすぎて、光を見ると白けてしまう。
多くの人数に囲まれ、決して彼らは自分に対して牙を向けず、好意的に接してくれているにも関わらず、
自分はなぜこの場所にいるのかを、終始自問しているような心境は、孤独以外の何者でもない。

沖田の家に身を置いた今、大学への足が遠のいていくのは必然的なのかもしれない。
かろうじて“大学生”は演じ続け、週に2度は通学している。

「晋助、最近サボりすぎだ。このままだと留年になるぞ」
「んなの俺の勝手だろうが」
「そういうわけにはいかん。みんな心配している……というより最近お前ヘンだぞ」
「何が。元々ヘンなお前に言われたくねえし」
「俺はヘンではないぞ!桂だ!」
「名前じゃねえよ。あ・た・ま」
「なんだと」

こうして桂が毎度絡んでくる。
最近は露骨なサボタージュをしている高杉に対して、執拗なまでの説教が続けられる。
こんな自堕落な自分でも気にかけてもらえると、本来は感謝すべきなのだろうか。
内心頭をふる。桂もみんなも、正体は偽善者に違いない。
お前らは俺の何を知っている。いい友人ぶるなよ。

苛立ちが頂点に達し、高杉はバンと机を叩いて席を立った。

「おい、どこへ行」
「もうほっとけよ!」

一際声を荒げると、周囲の目が高杉に集中する。
さすがの桂も押し黙ってしまった。こんな高杉を見たことがなかったのだ。
僅かに胸の痛みを覚えて、高杉は教室を出て行った。

人目が嫌で男子トイレに入った。
手洗い場の前の鏡に自分の姿をうつすと、どことなく死人のような顔をしていた。
こういう時、自身の幸の薄さを感じる。
同時に、少しずつ堕ちていく人生に苦痛と快楽の両方を伴う。
堕ちていくというよりも、人の起源とは、社会から外れたものなのではないだろうか。

蛇口から水を出す。
指先を差し出してみる。冷たい。突き刺さるようだ。

そのとき物音がしたので、トイレに誰か入ってきたのだと察した。
高杉は我に返り、取り敢えず手を流す。
鏡で再度自分の容姿を確認しようと顔をあげる。
全身が総毛だった瞬間だった。

真後ろに、土方が立っていた。

「………」

熱くもないのに、汗が一滴頬をつたう。
鏡越しに、土方と目が合う。とつぜん、土方が不気味に口元を釣りあげた。

高杉は暫く動けなかった。
その間、幽霊のように後ろに張り付いている土方。
震えることすら出来ない戦慄感だけに支配された。


「どうしたんだよ晋助。突っ立っちまって」


クッ、と嘲笑を入れて、土方が口を開いた。
高杉はそれでも身動きがとれず、鏡に映っている相手を睨めつけた。
背中を取っている男は、下手に動けば爆破してしまう時限装置のようだ。

「さては、俺が怖いのか?あ、それとも」
「………」
「このまま俺に強姦されてえのか」

高杉は咄嗟に振り向き、拳で空を切ろうとした。
その腕を掴まれた。

「いっ」
「細えなあ。お高く止まってるくせに、こんな簡単に捕まえられるんだもんな」

凄まじい力で捻られ、高杉は呻いた。
ふと頭を過ぎったのは、まだ授業中だということ。暫くは誰も入ってこないだろう。
しかも自分は敢えて、出入りの少ないトイレを選んだ。


「なあ…ヤっちまう…?俺、お前見るだけでビンビンになっちまうんだよ、最近。なあ、お前のせいだよな。
責任とれよコラ」


耳元に、すっかり息のあがった欲情の声をすり込まれた。
こんな声、出せる男だったかこいつは。

頭では抵抗したはずが、高杉の肉体は一歩出遅れ、気づけば土方に後頭部を鷲掴みされ、無理やりな口付けをされていた。
土方の舌が複雑に這い回り、高杉の口内を荒らしまわる。

(嘘、だ、こんな…)

身体がどんどん痺れていく。
土方の手はすでに高杉の胸と、突起物を、着衣越しに貪っていた。
全く抵抗できないわけではない。相手は愛撫に集中しているから、こちらの手は今自由だ。

「んっ、んんっ」
「イイだろ?お前って、こういう激しい感じが好きなんだな」

服の下への侵入を許すと、すでに張ってしまっている性感突起を、直に摘まれ転がされた。

「あ!や、やめっっ」

土方に手を出されるのは久しぶりだが、彼の熱は覚えている。
こんな荒々しい愛撫ではないし、退屈という言葉が似合うほどに優しく、愛情が込められていた。
以前なら余裕で突っぱねられただろう男の欲塊は、細胞を全取替えしたかのように、猛獣に変貌していた。

「はな、し…っう、んんっ!」
「どうよ。セっクスして感じたことすらねえ男に、こうして喘がされてるってさ」

胸をはだけられ、乳首の上を太い舌がくの時に這う。

「あっ」
「やらしい乳首だな。声もやらしいし。まあそれだけじゃねえけどな、お前のはしたねえところは」
「な……ん、うっ!」

おかしい。身体中が高揚して、冷静ではいられなくなった。
勝手に声が出る。
自分の欲しい淫らな言葉や愛撫が、この豹変した男には全て把握されている気がした。

「ひじ、かたっ、お前、何…っ」
「ん?」
「前と違う、」

生理的な汗が出てきて、高杉は涙目で訴える。
それを見た土方は急にはしゃいだような顔つきになった。
ゾッとした。

「そうだよな、驚いたよなあ?以前の俺は、お前への愛情が最優先でチンケなセっクスしかできねえ男だったからなあ。
お前が物足りねえって顔を毎回するから、そりゃ悔しくて悔しくて…終いには感じたこともねえって言われる始末で。
あれは効いたよ…死にたくなった。お前にとったら、そのへんのフンを足蹴にして片付けたみてえなモンなんだろうけど、
俺にとったら、それなら死んじまったほうがいいって思えるくらいのことだった…お前にコケにされた俺が憎くて…
お前が死ぬほど憎くなって……お前が周囲から見放されて、孤独に苦しんで、俺の手で毎日ぐちゃぐちゃにされて喚いて…
最終的に俺の肉奴隷になって、死んじまえばいいって……そうだよ。どうせ優しくしたって、
お前からはこれっぽっちの愛情も得られねえんだからっ。それだったら苦痛を与えるだけ与えて、
お前の無様さを見ているほうがよっぽど愉快だ!」

土方は捲し立てるようにしゃべり、息を切らせた。
憤怒やら悲哀やら僅かに残されている情やら。あらゆる色が混ざりすぎると、どす黒くなるものだ。
今の土方の有様は、それこそ滑稽であるほど深い闇色だった。

「ひっ!」

唾液に塗れさせた乳首に歯を立てられると、それは既に痛みではなく、喜悦による鳥肌が立った。
高杉のセっクスのために作られたような爛熟の器は、ピンポイントを突かれれば、精神が絶望しようと、
男の愛撫に反応してしまうのだった。

「あっ、あぁっ」

交互に桜色の装飾を絞られるように吸われ、足元が覚束なくなる。
快楽の痺れに只管耐える肉体に、容赦なく土方の乱暴な愛撫が注がれ、高杉は現状を忘れ、声を上げていた。

「こんなに感じてるお前、初めて見た…そっか、はじめからこんな風に虐めりゃよかったんだ」
「や…っ、や、だ…っ」
「嫌か?そこを組み敷くのが楽しいんじゃねえか。まあ、あんま嫌そうにも見えねえんだけどな」

腹部から下も素肌にさせられ、片足を抱えられると、目を背けたくなるほど露骨に欲情している第一の性器を、
土方の手の中で弄ばれた。

「うんあっ!だ、ダメ…っ」

止まらない土方の暴走は、高杉の下半身に射精の意志以外を許さなかった。
土方の汗まみれの手に促され、高杉は短い悲鳴と共に、強制的に精を吐かされた。

「おいおい、溜まってたのか?すげえ量だ」

呆れるほどの長い射精だった。
忘我の瞬間を迎えた後、生々しい床タイルの有様を見せつけられ、一気に嫌悪感がむせかえして来た。
が、休む暇は与えられなかった。
土方の指がまだ触れられていない後方に食い込んだ。

「くううっ!」

簡単に付け根まで埋め込まれると、中で括れながら繊細な内壁をつついて来た。
指はすぐに増え、高杉は喜悦の声を上げ続けた。

「どうだ晋助、死にそうに気持ちイイだろっ?そろそろアレが欲しいんじゃねえの?お前の大好きなアレだよ」
「うっ、ううっ」
「懇願してみろよ…お前に頭下げさせたいんだよ俺は。お願いします、下の口でしゃぶらせてください。
ち、ン、ぽ」

囁かれた言葉に、高杉は総毛立った。
あの男から散々聞かされた卑猥な単語が、この土方の口から吐かれた。

「ああ、やっぱりそうかあ。こういうこと言われると興奮しちまうんだ。今、俺の指をすげえ締めつけた…」
「っ、んな、こと…」
「こんなヒクヒクしてんのに?俺の指をちンぽと勘違いして、食おうと必死になってんじゃねえか」
「やめろよっ」

高杉は耳を塞いだ。あの男が嫌でも重なるのだ。
この変貌した友人はどこでそんな言葉を覚えたのだろう。
幾度か繊細な部分でも繋がったが、まだかけだしの少年だったじゃないか。

「晋助、言えよ…言ってみろよ、俺のちンぽ下さいって。おら言えよクソビッチ!」

憎悪をたっぷり含んだ、蔑みの罵声が響き渡る。
はじめは純粋な恋だったのだろう。
それを安易に捻じ曲げたのは自分だ。肉体だけ許してやると。
いくら繋がっても何一つ得られない虚しさを面に広げている土方が、脳裏に浮かぶ。

「うぁっ!あっ!やめっ、やだっ!」

一寸のずれもないほど、3本の指が弱点を突いてきた。
ちっ、と舌打ちが聞こえる。次の瞬間、高杉は苦痛一色の声をあげた。

「気持ち良いだけでイカせるかよ」
「っ痛っっっ?!」

ガリ。
男を受け入れる入口で、火薬が破裂したような感覚に陥る。
中をこすって…いや、抉っている?
深い切り傷にも似た激しい痛みに襲われたとき、土方の指が引き抜かれた。

「ほら」

眼前に差し出された土方の三本の指には、真っ赤な血が滴っていた。
高杉は青ざめた。

「生まれながらのクソビッチには、これ以上にねえくらいの恐怖だろ?ケツが使いもんにならなくなっちまうのは」
「………」
「声も出ねえか?…は、ざまあっ」

鳥肌が立つような高笑いを被せられた。
高杉の股間から足先には性の証明ではなく、傷つけられた痕跡がえげつないまでに赤く流れていた。


「恨んでんだよ晋助、お前を」


室内は異様な静けさを保っていた。
土方から聞いた今までのどの言葉よりも、重かった。


37.
「…なに…?」
「まじないでさあ」

タトゥスタジオの閉店時間まではもう少しある。
二階の部屋で休んでいると、ふと沖田が上がってきた。
気持ちのやり場がなく、高杉は柄にもなく他人の家で泣き崩れていた。

「あんたの涙は滅多に見れねえんだし、もらっとかないと」
「…お前がこういうことすると、拍子抜けする…」
「ひでえ」

沖田は高杉の涙を舌で舐めとっていた。

「今日のあんたは、ホントに調子悪そうでさあ。涙もしょっぱいや」
「…涙の味に違いなんてねえだろ」
「あるらしいでさあ。知らねえけど」
「…適当かよ」
「お加減が悪そうでしたから」
「……最悪」

今は得意の仮面も翳せそうにない。
本音をぽろりと不機嫌にこぼし、力なく沖田の肩によりかかる。

「?あんた……どっか痛むんですかい?」

沖田が声を堅くした。
無意識に庇っていたのかもしれない。
沖田に体重をかけるとき、尻部と地の接触を避け、無意識に不自然な体勢になっていた。

「……ヤりすぎて痔になったのかもな」
「それらしい口実ですねい」

沖田は笑っていたが、一段と低い声だった。
突然、臀部に軽い平手打ちをくらった。

「いっ、てっ」
「……晋助さあ」

髪を少し引っ張られたかと思うと、押さえ込むように抱きすくめられる。


「俺のモンになるんでしょ…?なら文句も言わせてもらうし、嘘も許さねえ」


耳たぶを齧られた。沖田から、所謂牡の支配欲というものを感じ取った。
最近は時折垣間見せていたが、距離を縮めてからの沖田は、芸術家が秘めている狂気とはまた別の、
もっと厄介な狂気を持ち始めていた。
ああ、ヤバイのと約束しちゃったかな、と他人事のように考える。
安易にも、この刺青師に殺されたいと願ったのは自分だ。
冷静になって考えれば、ただの自暴自棄。死ねよ自分。

「…尻が痛い。尻の穴が、すごく…」
「何された?」
「…思いっきり引っかかれた」
「そりゃあマズい、急いで病院へ行きやしょう」

隠れた傷を告白したからか、一人では立ち上がれなくなった。
店を早めにクローズすると、沖田は表の看板をひっくり返す。
病院までは少し距離がある。沖田の肩を借りて、そのへんでタクシーを拾うことにした。

「…俺は、こんなだよ。毎度毎度…」
「今更なんですかい。それなら俺も一緒でさあ」
「恨みも…たくさん買ってる」
「愛されてますねえ」
「最近、友達の人生…ぶっ壊したんだ……」
「そうですかい。悪いお人だ」

今日は沖田の前でどれだけ泣いているのだろう。高杉はタクシーの中で、鼻を啜っていた。

「晋助がこれで大事に至ったら、俺はあんたのダチ…一生恨むでしょうね」

そんな歪んだ言葉が、この時は何より救いだった。


38.
「…ふーん」

妻が不躾に突きつけてきた一枚の紙を、銀八は能面顔で受け取った。
以前銀八が渡した離婚届だ。サインされている。

「お願いだから別れて」
「それ、俺の許可必要?」

結婚生活というよりも長い冷戦のなかに、男女が身を置いていたようだった。
男は家庭に飽き、嫌気が差し、外に行き、女はそんな男を恨み、何度も殺意を抱いた。
二人の間に授かった子供には何の罪もない。
が、人間とは所詮自分本位だ。都合が悪くなれば、そんなものはどうだって良くなる。

「明日の朝、娘と実家に戻るから」
「荷物は?」
「もうまとまってる」

随分前からまとめていたらしい。嫌味か。

「やだあああああ!」

不意に、甲高い声が割って入ってきた。
銀八の腰部あたりまでの幼い少女が、絶叫しながら父親の足にしがみつく。

「やだやだああああっ!パパもー!パパも一緒に行こうっ!別れるなんて言わないでっ」
「………」

子供の泣き声は前から得意じゃなかったが、これは苦手とかいうレベルじゃない。
お前のその泣き声が、まさに俺たちの終わりの象徴じゃないか。

「泣くなよ。ママんとこ行きな」
「やだやだやだっ!」

やめてくれ。その声はキツい。
短い時間だったけど、お前は俺の子供だった。でももう終わるんだ。
銀八はほんの一瞬躊躇したあと、決心したように小さな彼女を冷たく突き放した。


「うっせーんだよ。俺はてめえも、そこの女のこともどうでもいいんだ。わかったらさっさと消えろ」


自分が人の痛みを知っているとすれば、親から捨てられた子供の痛みだ。
恐らく一生の傷を残すだろうとわかった上で言い放った自分は、本当に性根の腐った男だ。

「あんた最低……子供にそんなこと」
「面倒くせーの苦手なんだよ。ああ、文句ならせめて今だけ受け付けてやるよ」
「っ!!」

思わず握り締めたグーの手は、彼女の積年の恨みによるものだろうか。
子供はくしゃくしゃの顔を凍りつかせていた。

「死んじゃえ!!アンタなんかっ!野垂れ死んでしまえっ!!!」
「ああ死ぬよ。皆いつかね」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねえええええええええ―――――――!!!!」

刃物があれば刺殺していた。鈍器があれば殴り殺していた。
暴力という手段を押さえ込んだら、残されるは口の凶器だけだ。

女は壊れていた。
死ね、だけを只管あきることなく繰り返していた。
いつしか呪文のように聞こえてきて、銀八は目の前がくらくらとした。
『死』をこんなにも望まれる機会などないだろう。
いつ終わるかもわからない、この『死ね』という呪文だけで、死んでしまえそうだ。

この感覚は久々だ。久々の、悪寒だ。

終焉を迎えた家庭を背に、最低限の貴重品を持って、銀八は部屋を出て行った。
風に当たりたい。気を紛らわせるものが揃っている場所なら、どこでもいい。


「兄ちゃん、一人酒かい?」

適当に飲み屋を探して入り、カウンターで飲んでいると、いつから飲んでいたのか、すっかり出来上がっている中年のサラリーマンが、
隣に座ってきた。
酒は好きだが、酔う前に酔っぱらいとは絡みたくない。
それに、一人で飲みたかった。無視してやった。

「一人で飲むなんてえ、女にフラれたか〜?あ、それとも、兄ちゃんくらいの子なら彼氏かな〜?」
「………」
「あー!シカトすんなって〜!な、奢ってやるから話そうぜえ」

押せば何とかなるという思考回路なのか、もうそれ以前の問題か。
身体を密着させてきて肩まで組まれた。

「実は〜俺もひとりなんだけどお…兄ちゃん、どっちもイケそうだよねえ〜?どうかなあこのあと。
あ〜、俺たちの祝杯ってことで、このビールやるからさー!な、なっ」

銀八は隣が空席のように振舞い続けていたが、男の手が自分の足を這い回り始めたとなると、
そうもいかなくなった。
男が差し出してきたビールのジョッキを勢いよく煽り、
男の顔めがけて噴出した。

「ぶっっ?!!」

そのあと、銀八は男を席から引きずり下ろし、床に転ばせた。
一瞬の出来事で、周囲が騒然とする。

「な…な……?…」

呆気にとられた上、酒も回っているせいか、状況判断ができないらしい。
銀八はジョッキの残りを上から、男の頭に注いでやる。

「俺とアンタ?釣り合いがなさすぎて吐き気がするわ。俺をその気にさせんなら、据え膳に
肌が白くて、綺麗で、しまりのいいエロい子を用意しろよ。そいつを食わしてくれんなら…そうだな。
アンタのちンこくらいはしゃぶってやるよ」

まだ一杯も飲めていないのに、店を出ざるをえなくなった。
缶ビールでも買って、公園で飲んでいたほうが良さそうだ。
飲めそうな気がして、コンビニで缶ビール大を5本買った。

夜が深くなった公園は不気味だが、一人を満喫するにはもってこいの環境だった。
一缶空けると、もう止まらなかった。
こんな夜だからか、飲むペースが早まる。腹に何もいれていないせいか、あっという間に酔いが回る。

いつの間にか体もだるくなっていた。
袋に空き缶を仕舞う力もなくて、項垂れると足元に転がっている缶ビールが目に入る。
やり切れなくなって、つま先で一缶蹴り上げる。
目頭が熱くなる。

「…何やってんだ、俺……」

声が震える。鼻先がくすぐったいと思ったら、それは涙だった。
拭う気にもなれず、下を向いたまま鼻を啜った。
(あいつは、どうしてんだろうな……)
晋助。
結局みんな、突き放してしまったけど。


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