鋼の短編

□さよならは言わない
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   * *



今まで見てきた子供が戻ってきた。

子供を目で追い始めたのはいつごろだろう。

詳しくは思い出せない。

けど、子供の前を見る姿、焔のついた瞳に目を奪われた。




何人もの女性と付き合ってきた。

子供はその女性たちのような柔らかい身体でもないし、天邪鬼で喧嘩っ早いガキだ。

それでも、想いだけは溢れてくる。




――好きだ



そう気づいたときは、絶望すら感じた。

どうしてこんな子供を……

そう思ったのは何度だろう。


けれど、結局、目は子供を追っている。











「よう、大佐……あ、今は准将だっけ?」

「鋼の!?い、今まで何していたんだね!!半年間も音信不通で!!」

「そう怒るなよ。……今日は話があってきたんだ」


子供が戻ってきた。

半年も連絡も取れず、どこにいるかも分からない。



ジャラと音を鳴らして取り出されたモノに私は驚いた。



「まさか……」

「うん。取り戻したよ。俺たちの悲願がやっと叶ったんだ」



そう言って、子供は手袋を外してその手を見せてくれた。

穢れのない……汚れ一つついていない手。

私の手とは大違いだ。




「そうか……おめでとう」

「サンキュ」

「では……」

「うん。准将たちにはたくさん世話になった。でも、……俺は軍をやめるよ」

「そうか……」



さびしくなるが、その方がいい。

この子供を軍などに置いておけない。

手を汚すのは私たちだけで十分だ。






「俺さ……、旅に出ようと思うんだ」

「……なぜ?やっと終わっただろうに。……これからはゆっくりすべきじゃないのかい?」

「うん……そうかもしれないんだけど……アルにも言われたし」


旅なんて出たら、もうほとんど会えなくなる。

今までは軍命でちょこちょこ顔を出させることができたが、軍をやめるとなると、そうはいかない。





「自分を見つける旅をしようと思うんだ」





そう言う子供に、無理だと悟った。

この子供はすでに前を向き始めている。

今更私が何を言ったところで、この子供が旅を出ることは間違いないだろう。



「俺は俺を見つけに行く。俺自身を作るために旅をしたいんだ」

「……そうか」



そう………言うしかできなかった。

子供が指す"俺自身"とは何か分からない。

けれど、それは子供にとって、とても大切なものなのだろう。

新たについた焔にあきらめにも似た想いがわいてくる。





「じゃあ、行くな。今まで、本当にありがとな」

「気を付けて行っておいで」

「サンキュ。あんたが……あんたも早く悲願が達成できるよう、祈ってるよ」


そういって旅立つ君に、私は結局何も伝えることはできなかった。

だから、一人になった部屋で呟く。





いつか、君のいう"俺自身"を見つけられたら……


もし、君の中にこの場所が残っていたら……


帰っておいで。


君にとって他人の場所でも構わない。


ただ、言わせておくれ……。この気持ちは大事にしまっておくから。







――「お帰り」と。







End

〔あとがき〕


お互い両想いなんですけどねぇ……


けれど、准将は子供を男だと思ってるし、子供は准将を助けられるような付加価値を持っていない。

そんな二人の想いがすれ違いを生み出してしまった……というわけです。


一人称が多く、独白が多い話でしたが……

想いというか気持ちは伝わったでしょうか?


好きなのに離れなければならない。

でも、この二人はそうじゃない。

好きだからこそ、離れなければならない。


そう考えているわけです。

ただ、二人ともお互いの場所が帰る場所だと思っているんですね。




2014年6月13日作成
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