『伸ばされる手』 完結

□2.Selfsacrific
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イーストシティから離れたエドは、西部に来ていた。

すでに3か月。

あれから、エドの様子がおかしい。

アルは心配そうに兄を見るが、結局何も言えなかった。



「(こんな兄さんを見たのは……二度目だっけ……)」



自分が知る限り、兄がここまで消耗し、絶望した表情をするのを見たのは2度目だった。

しかも1度目の絶望からは、今だ立ち直れてないはず。

今はそれ以上にしなくてはならないことを見つけたら元気な姿を見せていたけど…………





「(兄さん……)」



――誰か、兄さんを助けてください…………





心の闇から救い出せる人がほしい。

兄に寄り添って、兄を笑顔にできる人が現れてほしい。

そう思う。

けれど、現実はそう甘くない。

エドの心は、今も過去にとらわれたまま。










兄を強い人だという人たちがいる。

けれど、弟の自分はそうは思わない。

兄は弱い人だとは言わない。

でも、強くもない。

弱さを隠して笑える人ではあるけど。





大丈夫?って聞いても、大丈夫としか返ってこないのは分かってるから……





「兄さん、イーストシティに行こう?」

「ヤダ」




即答。

むしろ、イーストシティと言った瞬間に返された。

ずんずんと前を歩いていく兄に、アルフォンスはため息をつく。

1度目と比べ、食事もする。ちゃんと睡眠もとる。

……けど、兄の体調はよさそうには見えなかった。

自分を追い詰めてるのか、時々苦痛に顔をしかめている。










「ハァ――……」



兄は図書館に行って今はいない。

相談したくとも、相談する人はいないし……



「おや、どうしたんだい?大きな体をそんなに縮めて」

「おかみさん……」



ため息をつくアルフォンスに話しかけたのは宿のおかみさんだった。

どこなく雰囲気が母に似ていて、兄もアルもこのおかみさんが好きだった。



「いえ……兄の様子がおかしくて……」

「エドちゃんが?何かあったのかい?」

「それが分からないんです。ただ、知り合いの元に行ってからずっと自分を追い詰めてるみたいで……」

「ならそこで何かあったんじゃないのかい?その知り合いって人っと、喧嘩したとか」

「ケンカ……」



あの兄が中尉たちとケンカするはずがない。

するとすれば………



アルの頭に一人の男が浮かぶ。

サボり魔で、雨の日は無能で中尉に脅される自分たちの後見人。

正直、アルは大佐のことは嫌いではなかった。

なんだかんだと言いながら自分たちのことを考えてくれて、資料なども与えてくれる。

ただ、好きでもなかった。



「(あの人の言動は、時々兄さんを追い詰める……)」



兄を知るはずがないから、悪意あってのことじゃないことはわかる。

恐らく、からかい半分で言ってるだろうことも。




「エドちゃんに聞いてもダメなら、もう少し様子を見て、それでもダメなら聞いてみたらいいんじゃないかい?」

「そう……ですよね、そうします」



アルはカクンと頷くと、少し晴れ晴れとした様子で兄を迎えに行った。




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