『伸ばされる手』 完結
□9.Explanation
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ロイは目の前で目を吊り上げる部下に、小さくため息をついた。
「ハボック、仕事に戻れ」
「仕事はすべて終わらせました。それより、質問に答えてくれませんかね?」
愛用の煙草をくわえるわけでもなく、ロイの前から動こうとしない。
―――大佐はエドのこと、どう思ってんスか
ハボックが執務室に入ってすぐ問いかけてきた質問。
ロイはそれに答えられなかった。
この目の前の部下は小さな錬金術師を大切にしているのは知っている。
それはあくまで兄としての感情であることも………。
「お前には関係ないだろう」
「そうっスね。でもエドが傷ついてるのを見て見ぬフリするのはムリっすから。
……大佐、どれだけエドにひどいこと言ったか、自覚ありますか?」
なるほど。
あの子供はハボックに助けを求めたのか。
ズキッと走った心の痛みに気づかないフリしてハボックを見る。
「事実を言ったまでだ。私は子供の……しかも男に興味はない」
そんな気持ち、気持ち悪いだけだろう。
――バンッ
ハボックが力任せに机をたたいた。
つい最近解決した誘拐犯に関する資料や報告書が一瞬机から浮く。
「その言葉がエドを傷つけてんだよ!なんで普通にフることをしなかったんだ!!」
相手の気持ちを踏みにじる言葉を吐く必要はなかったはずだ。
「エドがどんな思いで気持ちを打ち明けたか………あんた、考えたことないッスよね」
エドは決して答えてもらおうと思ってなかった。
一種のけじめだと言っていた少女。
どうしてあのきれいな心を傷つけることができるのか。
「エドはアンタへの気持ちを忘れるそうッスよ」
ハボックは小さくそう呟くと部屋を出ようとノブに手をかけた。
「……アイツのことを知って、後悔してください。自分がどれだけ愚かなことをしたのか、どれだけアイツを殺したのか……」
ハボックは振り返りもせずそういうと扉を開けた。
そして思い出したように振り返り……
「俺はアンタを許さない。そして、エドのことを中尉に話したことも」
二度と中尉はエドに好かれないでしょうけど。
「っ、どういう意味だ!!」
ハボックはそれだけ言うとロイの言葉には答えず、今度こそ部屋を出た。
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