鋼の短編
□帰る場所
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―――サウスシティ
「アル、何かいい本あったか?」
「ぜーんぜん。前とあんまり変わってなかったよ」
「だよな〜」
エドワードは読んでいた本を本棚に直しながら小さくため息をついた。
どんなに探しても、賢者の石につながる情報は見つからない。
正直、ちょっと疲れてきていた。
あるかもわからないものを探すのは、思った以上に精神的に体力がいるようだ。
「明日はあの錬金術師だったつー爺さんの家に行くとして……そのあとどーする?」
3日かけて口説き落とした(笑)錬金術師の爺さんは、明日の一日だけ家に入らせてくれるという。
だが、そのあとの予定は未定だった。
ここの図書館はすでに読みつくしてしまって、正直その錬金術師の家に行った後はここにいる必要はなくなってしまう。
「あーあ。どっかに情報転がってねぇーかな〜」
「それは無理だね。都合がよすぎるよ」
「だよな……」
冷静に突っ込んでくれる弟に、エドは相槌を打ちながら空を見上げる。
「兄さん、一度東方司令部に戻らない?」
大佐が何か情報掴んでるかもしれないし、さ。
東方司令部の面々が好きな弟は、こうやって時々、東方司令部に行こうと誘ってくる。
そういえばいつだっただろう?
……アルが東方司令部に"戻ろう"と言い出したのは。
「(……ああ、俺が大けがを負ったときか……)」
自分の不注意で犯人に捕まってしまったあの事件。
もっとも、エド自身はロイに対する逆恨みに巻き込まれただけだが。
弟にたくさん心配かけてしまった。
「兄さん?」
「お前、東方司令部の人たち好きだよな」
「ど、どしたの?」
「別に……」
自分たちには帰る家はない。
あの日、すべて燃やした。
「(まぁ、いいか。アルに帰る場所があっても)」
アルに、帰る場所を与えてくれる東方司令部の面々。
アルが幸せなら自分も幸せになれる。
幸せそうなアルを見てるだけで十分だ。
「じゃあ、行くか、ついでに無能になり下がった大佐の顔も見に行こうぜ」
「うん!でも、大佐に突っかかりすぎないでよ?」
「それは大佐次第だな」
今はまだこれでいい。
アルは何も知らなくていい。
これは……俺の問題だ。
人を信じるも信じないも、自分の心の持ちようだ。
アルはまだ純粋な心を持ったまま。
自分は純粋な心を捨てたまま。
いつか、純粋な心じゃなくても、弟だけじゃなく、周りを大切にできる心が戻ってくれればいい。
今は……アルだけで十分だ。
エドワードは表面上では分からないが、楽しそうな雰囲気のアルにふっと笑いながら宿に戻った。
2日後、嬉しそうに東方司令部行きの列車に乗り込むアルと苦笑するエドは、トレインジャックに巻き込まれながら東方司令部に向かった。
END
(2014年8月19日作成)
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