鋼の短編

□眠り姫
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「兄さん!また本なんか読んで!!ちゃんと寝なきゃだめでしょ!!」



どちらが兄か分からない言葉が鈍く響く。

アルは目の前で本に集中している兄を怒っていた。

兄が眠らなくなって1週間。

すでに兄の目の下には隈ができている。

どんなに言い聞かせても寝てくれない。



「アル―、そっちの本貸してくれ」

「もう!本は明日!今日はもう寝る!」

「えー」


いつからだろう。

兄が子供みたいにごねだしたのは。

2週間前はまだましだった。

本を読んでいても、キリのいいところまで読めばちゃんと寝ていた。

それからだんだん本を読む時間が長くなって……今に至る。



正直、アルには分からなかった。

兄がどうして寝ないのか。

アルは寝ることも夢を見ることも出来ない。

だから、夢を見る恐ろしさを理解できずにいる。



「(大佐に連絡してみようか?)」



どうしたらいいのか、もしかしたらわかるかも。

……なんて、大佐に頼りすぎかな?



アルはまだ本を読む兄を見ながらそんなことを悶々と考えていた。

とりあえず、今は兄を寝かせなければいけない。

人は食べなければ、寝なければ生きられない。

このまま寝なければ、兄は衰弱して倒れてしまうだろう。



「兄さん……お願いだから、寝てよ〜」



涙声で訴えれば、兄は大きなため息をついて本を閉じた。

ようやく寝てくれる気になったようだ。

せめて1時間、2時間だけでも寝てほしい。



「おやすみ、兄さん」

「おやすみ……」



仕方なさそうにだが、ベッドにもぐりこんだ兄を確認して、アルは隣の部屋に移動した。

自分が鳴らす鎧の音で兄を起こしてしまわないように、と配慮してのことだ。

一人になったアルは、明日はどうやって兄を眠らせるか、朝になるまで再び悶々と考えるのだった。




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