鋼の短編

□大晦日
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「あれ?何してんの?」

「おや、鋼のじゃないか」

「久しぶりだな、大将」

「こんにちは、大佐、少尉」

「アルも久しぶりだな」



12月31日。大晦日の日。

今年も終わりだし、久しぶりに……と思ってエドワードは珍しく、本当に珍しく自分から東方司令部に行こうとアルを連れて列車に乗った。


今年もこれと言った成果はなかった。

大佐からも何度も資料をもらったが、全部ハズレ。

気が滅入るような毎日だが、もとよりそう簡単に見つかるとは思っていない。



「どうだ?」

「全然。まぁ、分かってたことだけどね」

「そうか……」

「で、何してんの?」

「ん?ああ、これは餅つきだよ」

「餅つき?」

「ああ、せっかくだからな。年明けに食べれるように全員でつこうと思ってな」



そう言って大佐が指した方には杵と臼が。

……もしかしなくても、部屋の中でやるつもり??



「外じゃ寒いじゃないか」

「……三十路だもんな」

「三十路言うな。まだ29だ」

「三十路じゃん」

「29だ。まだ30にはなってないぞ」

「数え年じゃ、三十路じゃん」



29と30の言い合いを始める大佐とエドに、司令部の面々は苦笑しながらも止めようとはしない。



「さ、もち米も炊き上がったようだし、始めようぜ」



ハボックの言葉に、わらわらと集まるマスタング組。

やっぱり最初は大佐からだろうということで、大佐からつくことに。

だが……



「……ハボック、代われ」

「……早くないっすか?」

「うるさい」

「大佐、年には勝てねぇーみたいだな」

「うるさい!」



いてて……と腰を抑える大佐に、にやにやとエドワードはからかう。

もっぱらエドワードは見学組だ。



「たまにはこういうのもいいな」

「そうだな。だが年末年始は事件が多いからな……いつ呼び出されるかわからん」

「だからブレダさんが今いないんですね」

「ああ」



アルフォンスも交えて、やんややんやと盛り上がる彼らを眺めながらのんびり会話する。



「食事はまだだろう?あとで年越しそばを用意するから一緒に食べて行きなさい」

「サンキュ」

「ありがとうございます」



いつ来るかもわからない自分たちの分まであることに、エドワードたちは心が温かくなった気がした。

家を燃やしたのは自分たちの意思だ。

けれど、やっぱり帰る場所がないのは寂しい。

そんなエドたちにとって、東方司令部は嫌な場所でもある(なんせ、余計な仕事を頼まれるから)が、帰ってきたんだと思える家でもあった。

おそらくエドワードは無意識だろうが。










餅つきが終わって、全員が全身片栗粉で真っ白になって、全員でシャワーを浴びようと競争した(エドはハボックに頭から片栗粉をかけられた)。


「あれ?エドワードは?」

「鋼のなら向こうのシャワー室を使ってる」

「へ?何でスか?」

「……お前ら、気づいてないのか?」


エドワードがいないことに気づいたハボックがロイに尋ねれば、ロイは怪訝そうな顔をした。

ブレダたちも分からないのか、ロイの方を見て首をかしげている。



「気づくって……何をッスか?」

「鋼のは……エドワードは女性だぞ?」

「……」


「「「はああ!!??」」」




「え!?え!?何!?」



シャワー室に男たちの声が響いた。

それは廊下まで響きわたり、数メートル離れた女性用のシャワー室にいるエドワードにまで届くほど。




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