鋼の短編
□変わらないものなんてない
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エドの独白
変わらないものなんてないと思ってた。
けど、最近そうじゃないんだと気づいた。
変わらないものなんてないと思ってたんじゃない。……そう思いたかったのだ。
大佐が……ロイのことが好きになったことに気づいた。
けど、この気持ちを伝えてもそれが叶うなんてこと、一度も思わなかった。
ロイの周りには常に綺麗な女性がいっぱいいたから……。
こんなつぎはぎだらけの子供なんかより、もっと将来にも役に立つ女性たちが……
諦めよう。好きだって言っても困らせるだけだから。
エドワードの恋はすでに自己完結していた。
それを完結させてくれなかったのはロイだった。
何を焦ったのか、急に好きだと言ってきた。
これについては何度聞いてもわからなかったけど、綺麗になりすぎなんだと言われた。
俺なんかよりもきれいな人はいっぱいいるのに……
どうせ、ロイの気持ちは物珍しさからくるものだと思ってた。
そう思わないと、やっていけなかった。
本気に受け取って……遊びだったと言われるのは目に見えていたから……。
人の気持ちなんて、簡単に変わる。
だから、変わらないものなんてないと思ってたのだ。
不安だったのだと思う。
自分は罪を犯した咎人で、ロイは大総統になるべき人で……
決して一緒にいてはいけない自分。ロイの足かせにしかならない自分。
けど、ロイはそんな俺の気持ちに気づいていた。
ロイに指摘されたとき、心臓が止まるかと思った。
気づかれてるとは思わなかったから。
……けど、同時にそれだけ自分のことを見てくれてるのだと実感できた。
そして、……変わらないものはないと、俺がそう信じたかっただけなのだと気づかされた。
変わらないものはないのだと知っていれば、たとえロイが別れを切り出してきても冷静に受け止められると思ってたから。
……そんなこと、あるはずがないのに。
だって、気づいたらこんなにも好きになってる。
冷静になんて……どう考えても受け止められるはずがない。
むしろ、ロイは捨てられるのは私の方じゃないかといつも思ってるよ……と言われた。
怖くないわけがないのだ。
何を不安に思っていたのだろう?
不安なのは自分だけじゃない。ロイも不安だったんだ。
それに気づいてからは、すっと気が楽になった気がする。
今でも変わらないものなんてないと思っている。
けど、昔と違うのは、その事実を素直に受け止められるようになった。
変わらないものなんてない。
けど、何も悪い方向にばかり変わっていくわけじゃない。
いい方向に変わればいいのだ。
そのための努力をすればいいのだ。
捨てられたくない。そう思うなら、捨てられないようにすればいい。
ロイは捨てることはないというけど、やっぱり努力は大切だと思う。
それが当たり前になると、当たり前を当たり前と認識できなくなって、きっともっと強欲なってしまうから。
強欲になって、いいことなんてない。
相手を縛り付けるだけだから。
変わらないものなんてない。
そう思う人は多いけど、きっとその半数以上はそう思いたいだけだ。
けど、今だから言えることがある。
―――ロイが俺に捨てられるかもって言ってたけど、絶対にそれはないってこと。
言ってやんないけどね(笑)
END