鋼の短編

□一生
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――チュンチュン……




「ああ、最後の最後まですまないね」

"気にしないでください。いつものことですから"

「ははは……」





あれから十数年。


エドワードが消えてからがむしゃらに生きて大総統にまで上り詰めた。

念願の大総統の椅子。

けれど、それを実感する間もなくロイは国を変えるべく動いた。

考える時間を失くしたかったのかもしれない。

……どんなに頑張っても、あの金色はどこにもなかったから……






「エドワード……」






どうしてもっと早く気持ちを伝えなかったのか……

どうしてもっと気持ちに気づいてやれなかったのか……



どれだけ後悔してもしきれない。

あれからたくさんの女性が地位を求めてやってきた。

けれどどれだけ素敵な女性を見ても、あの金色以上に惹かれる者はでてこなかった。


結局、自分は金色以外はいらないのだと再認識しただけ。









「エドワード……早く君に会いたい」





国も落ち着いて、もうロイが指揮をしなくてもやっていけるだろう。

ずっと一緒にやってきたマスタング組と呼ばれる面々にはずいぶんと惜しまれたが、ロイは早々にキングの養子だったセリムに大総統の席を譲った。


そのまま誰にも知られないようにして田舎の方へと引っ越した。

流石に全く知られないように……とはいかず、ホークアイやハボックが偶に連絡をくれる。





―――何やってんだよ―――



「……エドワード?」





ロッキングチェアに腰掛けて自然を感じていると、エドワードの声が聞こえた気がした。

どうしてか、呆れたような表情のエドワードまで見える気がする。




―――素敵な人が現れるって言ったのに……―――


「君以上に素敵な人なんていないよ」



―――女たらしのロイ・マスタングが言う言葉じゃなねぇーな―――


「なんと言われようと、私が心から愛しているのはエドワード、君だよ」



―――恥ずかしい奴……歳食っても変わんねぇーな―――


「おや?そうかい?これでもダンディになったと思うがね」



―――自意識過剰だぜ!でもまぁ……ロイはいつだってかっこよかったよ―――


「君にそう言ってもらえると、とてもうれしいよ」



―――はぁ……ロイ―――


「ん?」




―――……お疲れさま……―――


「……ああ……」





風がロイの頬を撫でた。

まるで、エドワードの白い手に包まれているようだ。


触りたくて手を頬に伸ばすが、何も掴むことはできず、自分の頬に触れるだけ。



「エドワード」



一人はさみしいだろう。

一人はかなしいだろう。

君は一人でも大丈夫だったか?


……私は一人じゃ寂しすぎて悲しすぎて……一日でも早く君に会いたかったよ……




「なぁ、エドワード。もういいだろう?私も君の元へ行きたい」


―――それ……どういう意味か分かってんの?―――



「分からないわけがないじゃないか。……今度こそ私を君の恋人にしてくれないか?」


―――っ……やっぱり恥ずかしい奴……ホークアイ……リザさんとかはいいのか?―――



「大丈夫だよ。……なんだかんだと言いながら私のことをよく知っているからね。……私の想いも考えもきっとお見通しだろう」



なんたって、最後は呆れながらも全員が敬礼して送り出してくれたからな。




「(それに、エドワード君に、大将によろしくとも言われたからな)」




エドワードがいなくなって、抜け殻になりかけてた私を支えてくれた仲間たち。

みな、エドワードに顔向けできるように大総統になって国を変えろと言った。

そのあとは何をしようが構わないから、と。




「エドワード……エディ」


―――ったく……しゃーねぇーな……―――



「もっと早くに君に会いたかった」


―――なんで?―――



「そしたらもっと多くの時間を君といれただろう?」


―――そうだな……でも……あの時だからこそ俺たちが会えたんじゃねぇーの?―――



「そうかもしれないな」


―――そうだろ―――



「なら、せめて君が女性だということは知りたかったな」


―――……アルの奴に聞いたのか?―――



「ああ。教えてくれたよ……。人体錬成のせいで、性別が男に変わってしまっていたことも」


―――そっか……―――



「まぁ、私は男とか女とか関係なく、君だから好きになったんだ。君だから欲しかったんだ」


―――だから……本当に恥ずかしい奴だな―――




顔を赤く染めたエドワードが見えるようだ。

子供よりも子供で、大人よりも大人だった金色は人体に詳しい割に、恋愛ごとには初心だった。

それこそ、キスだけで真っ赤になっていたぐらいに。



「(――ああ、目に浮かぶな)」




日差しがロイの元に差し込む。

閉じた目を開けると、目の前には光に包まれたエドワードがいた。

眩しくて仕方なかった存在。

手を伸ばしたくても伸ばせなかった存在。




「―――ホント、やっかいな子供だったよ」


―――うるせーよ……アンタだって十分厄介だよ―――



「ははは」


―――笑い事じゃねぇーよ……ったく……ほら……手出せよ―――



「君の元へ連れて行ってくれるのかね?」


―――あんたが本気で望むのならな―――



「今度こそ君の傍で……君のとなりに立ちたい」


―――……そっか……―――




苦笑しながらも嬉しそうに差し出してくる手に、ロイはそっと手を重ねた。





ああ……やっと君に触れられた―――





どれだけ夢に見ただろう。

この瞬間をどれだけ心待ちにしていただろう。





―――エドワード……愛してる―――

―――だから……もう……―――

―――君は言ってくれないのかね?―――

―――言わなくても分かってるだろ!―――

―――私は言ってほしい―――

―――〜〜〜好きだよ……誰よりも―――

―――エドワード!―――

―――わっ!?急に抱き着くなよ!!―――

―――ハハハ―――

―――笑い事じゃないって!―――


































「今頃、大将と再会してるんスかね?」

「そうかもしれないわね」

「今度こそ幸せになってほしいっスね……あの二人には」

「ええ……」































「姉さん、幸せになってるかな?」

「さぁー、でも……好きな人と一緒になれるんだから、幸せなんじゃない?」

「そうだといいな」

「……ずっと離れ離れだったんだもん。今頃イチャイチャしてるでしょ!結構初心だから、押されまくってたりして」

「ハハハ……ありあえるかもね。でもまぁ……姉さんが幸せならいっかな」






























サァ――――……





―――好きだよ……ロイ―――

―――愛してる……エドワード―――







その日、二人とかかわりのある者たちの近くでかかわりのあった者たちが幸せそうに寄り添う二人の姿を目撃したのだった―――









End

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