鋼の短編

□バレンタイン
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どっかの国ではバレンタインという行事があるらしい。

エドワードがその行事を知ったのはちょっとした偶然だった。







「よう!久しぶり」

「大将!いつ帰ってきたんだ?」

「今?かな。アルはブラハに会いに行ってから来るって言ってたからもうすぐ来ると思うぜ」



3か月ぶりに訪れた東方司令部。

相変わらず煙草をくわえるハボックに、エドワードは内心嬉しそうにしながら手をあげた。

東方ぐらいだろう。こうやって好意的に受け入れてくれるのは。



「あっ!そうだ、はい」

「なんだ?」



にこやかにエドが差し出したのはきれいに包装された箱。

ハボックたちにとってここ2.3日で、よく見慣れたものだった。



「チョコレートか?」

「そ。てか知ってんの?」

「バレンタインだろ?」

「なんだ。知ってたんだ」



驚かそうと思ったのに残念。

ムーと唇を尖らせるエドに、ハボックはカラカラ笑いながらそれを受け取った。



「大佐の部屋に大量にチョコがあるからな」

「なにそれ」

「女どもが一斉に送りつけてきたんだよ」



ひょこっとハボックの後ろから顔を出したのはブレダだった。

手にはハボックと同じくきれいに包装された箱が握られている。

どうやら大佐だけじゃなく、マスタング組と呼ばれる面々はそれなりにモテるらしい。



「てことはもしかして迷惑だった?」



自分たちのまで渡されては困るのでは?と思ったエドは申し訳なさそうにうなだれた。

基本は女性が好きな男性にチョコをあげるらしいが、別にその人たちだけじゃない。

友チョコと呼ばれるものや、感謝の代わりにと渡すこともあるのだと聞いたので、
エドワードとアルフォンスは日ごろなんだかんだとしてくれてる彼らに上げようと用意したのだ。



まさか、感謝して用意したものが迷惑にしかならないなんて……



そんなエドワードの思考を読み取ったのか、ハボックは気にするな。ありがたくいただくといってエドワードの頭をなでた。

いつもなら縮む!と叫ぶエドワードも、今日ばかりはおとなしくなでられている。








「じゃあ、大佐にもあげてくる!」


ハボックたちに大佐の居場所を聞いたエドはちょっと表面上はにこやかにしながらも、不安そうな顔で大佐のもとにかけていく。

好きな男性にチョコをあげる。

そう聞いたとき、エドワードの頭に浮かんだのはアルフォンスと……なぜか大佐だった。

好きな男性とは、必ずしも恋愛感情だけじゃない。

エドにとってアルフォンスは誰よりも大好きな異性だ。

ただ、それは家族愛であって、恋愛には全く関係ないだけで。












「あ、こんにちは」

「よう、アルフォンス」

「兄さん来ませんでした?」

「今大佐のとこに向かってるぜ」

「そうですか。……やっと渡す覚悟ができたのかな?」


指令室に顔を出したアルフォンスはハボックたちにエドワードの居場所を聞いてほぅっと息を吐きだした。

誰よりも近くでエドワードを見てきた自分だから……知ってる。

エドワードはマスタング大佐に恋愛感情で好意を抱いていてる。

まだ好意の範囲だが、きっと近い将来には好きとい感情に変わるだろう。

せっかくだから、たった一人の家族であるエドワードには幸せになってほしかった。

その思いを成就させてやりたかった。



「おわっ!すげー!!」



急に声を上げたハボックに、アルフォンスは何事だ?とそちらに顔を向けた。

ハボックはエドワードから渡されたチョコレートの入った箱のリボンをほどいて、ふたを開けたのだ。

中から現れたのは色鮮やかなトリュフ。

そして一口サイズのチョコレートケーキだった。

金箔やホワイトチョコできれいに飾られたそれは、とてもおいしそうだった。



「こんなの初めて見たぜ」

「すごいわね。どこに売ってるのかしら」



指令室に戻ってきたホークアイも目をキラキラさせながらハボックの持つチョコの箱に釘付けだった。



「それ、売ってないですよ?」

「「「え!?」」」

「兄の手作りです」





ええーーー!?





東方司令部全体に響き渡るぐらいの大声が上がった。

自分たちの知るエドワードといえばやんちゃでガキ大将で、料理なんてしなさそうな子供。

むしろ、お菓子作りなんて時間の無駄だとか言いそうだ。




「本当か!?」

「ええ。兄さん、ああ見えて料理とか得意ですよ?」



小さいころからエドワードのお菓子を食べてきたアルフォンスにとって、今更な話だ。

料理は母のほうが得意だったが、お菓子作りに関してはエドワードのほうが上だった。

もともと錬金術師ともあって、凝り性だ。

一度凝ったら止まらない。

気づけばいろいろな種類のお菓子や、いろんな技術が入った飾りつけをいとも簡単にしていた。



「うめっ!まじでうめー!」



半信半疑で一つトリュフを食べたハボックは、驚いたように声を上げた。

今までチョコレートをもらったことはあるが、そのどれよりもエドワードからもらったチョコのほうがおいしい。

てか、あの有名なお菓子店のチョコレートよりもおいしいかもしれない。



「ちょっと意外だったな」



驚きながらもおいしそうに食すハボックたちに、アルフォンスは自分がほめられたようにうれしかった。

こんな体になってから、エドワードのお菓子を食べれなくなった。

そしてエドワードはアルフォンスが食べられないからと、普段から作るをことをやめてしまった。

そんなエドワードが、バレンタインだからとお菓子を作った。

この調子で昔みたいにお菓子を作ってほしい。

自分のことは気にしないでお菓子作りをしてほしい。

アルフォンスはそんな風に思いながらおいしいおいしいと食べるハボックたちを嬉しそうに見つめるのだった。





End
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