鋼の短編

□風邪
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―――バタン




「鋼の!?」

「兄さん!しっかりして!!」




慌てたような声を最後に意識は闇に飲み込まれた。









   * *





「ウィース」

「もう!ちゃんと挨拶してよね!兄さん!!」

「相変わらずだな、エルリック兄弟は」

「あら、いらっしゃい、エドワード君、アルフォンス君」

「お久しぶりです、ホークアイ中尉」

「大佐は執務室?」

「ええ、書類に埋もれてるわ」

「相変わらずだなぁ、大佐も」




3か月ぶりに東方司令部に訪れたエドワードは重たい体を引きずりながら何でもないように執務室の扉をあけ放った。

うしろではノックぐらいしてよね!という弟の声が遠くに聞こえる。




「よう、相変わらず書類ためてんだな、無能」

「だれが無能だね。そういう君は相変わらず小さいな」

「誰が小さいって!!」




3か月前と同じような会話をしながらも、エドワードはためまくった報告書を机の上にどさっと音を立てておいた。

今回は前回みたいに嫌味ではなく、ただたんに持っていられなくて音を立てただけなのだが、相手にはそんなのわかるわけがない。




「もう少し静かに置けないのかね?まったく」

「うるせー」




嫌味に対して嫌味を返そうとするのだが、頭が回らなくて言葉が続かない。

だからいつもならポンポンとテンポ良く続く会話も途切れてしまう。




「どうかしたのか?」

「別に。それより早く報告書見ろよ」

「それが人に頼む態度かね?」




呆れたように見てくる大佐に、疲れたように視線を下に向けた。

思った以上に体が重くて、自分より座っていても高い位置にある大佐の顔を見上げていられないのだ。

でもやっぱりそんなこと相手が知るわけもなく、嫌味を言ってくる大人げない大人。



――イライライライラ……




「うるせー!!早く見ろって!」

「何をイラついてるんだね」

「イラついてなんか……」




頭は痛いしのどはイガイガするし、体は重たいし目は回ってくるし足元はフラフラだし、体は震えるし寒いし。

相手するのもしんどくて、苛立ち交じりに叫んだ。

それが余計に体力を奪ったのか、大人が返してきた言葉を否定しようとした途中で言葉が途切れた。

叫んだ時に反射的に顔を上げたせいか、頭がくらくらする。

目が回って、スローモーションのように目の前に床が近づいてきた。

あ、だめだ……と足に力を入れたつもりだったが、体制を立て直すなんてできず、そのまま体を床に強打した。

打ち付けた体は痛かったが、それ以上に頭が痛かった。



ドサッという音が耳に響く。

倒れる途中、見えた驚いた大人の顔がなんか面白くて表情に出なかったかもしれないが笑った。

遠くで何か叫んでる声が聞こえるが、何を言ってるのかわからない。

理解しようとしたがその前に意識は闇に飲まれるようにしてブラックアウトしてしまった。




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