鋼の短編
□さよならは言わない
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「よう、大佐……あ、今は准将だっけ?」
「鋼の!?い、今まで何していたんだね!!半年間も音信不通で!!」
「そう怒るなよ。……今日は話があってきたんだ」
ジャラと音を鳴らして取り出されたモノに、准将――ロイは目を見開く。
「まさか……」
「うん。取り戻したよ。俺たちの悲願がやっと叶ったんだ」
そういって手袋をはずして出てくる白い手。
冷たい鋼の手じゃない。
「そうか……おめでとう」
「サンキュ」
「では……」
「うん。准将たちにはたくさん世話になった。でも、……俺は軍をやめるよ」
「そうか……」
たくさんの恩を忘れたわけじゃない。
何も返せてない。
それでも、もう軍にはいられない。
……いてはいけない。
「これは返すよ。……ありがとう、准将」
「……君が素直に礼を言うと気持ち悪いな」
「失礼な。俺だって必要な時はちゃんと言うさ」
ありがとうなんて、どんなに言っても足りない。
本をありがとう。
資料をありがとう。
励ましてくれてありがとう。
怒ってくれてありがとう。
道を示してくれてありがとう。
なにより……
―――好きな気持ちをありがとう。
「アルはさ、ウィンリィと一緒に暮らすらしいんだ」
そんでウィンリィと一緒に整備士になるらしい。
弟はすでにこの後のことを考えてる。
では俺は?
俺は何をする?
「俺さ……、旅に出ようと思うんだ」
「……なぜ?やっと終わっただろうに。……これからはゆっくりすべきじゃないのかい?」
「うん……そうかもしれないんだけど……アルにも言われたし」
でも、さ。
俺はアルもいて准将たちもいて……結構色々なものいっぱい持ってたんだ。
けど、"今の俺"はさ、何もないんだ。
准将を支えられるだけの地位もない。
後ろ盾もない。
……何より、"俺"自身がない状態だ。
けど、それは准将たちにとったらどうでもいいこと。
言う必要のないこと。
だから、言わない。
「自分を見つける旅をしようと思うんだ」
今まではアルのために動いていた。
俺のすべてはアルだった。
そして気づかされた。俺を作っていたのはアルだ。
でもアルがいなくなった今、俺を作ってるのは何か……。
――何もない。
何もないのだ。誰も知らないから、誰も気づいてないから……。
「俺は俺を見つけに行く。俺自身を作るために旅をしたいんだ」
「……そうか」
だから、当分会えない。
軍属じゃなくなるし……
もちろん、今にも溢れ出しそうなこの想いは誰にも見せず連れていく。
ここに置いといても困るだけだろうし、何より、何もない"俺"がこの人を支えられるとは思わない。
俺にあるのは錬金術だけ。
何も……助けることさえできない。
「じゃあ、行くな。今まで、本当にありがとな」
「気を付けて行っておいで」
「サンキュ。あんたが……あんたも早く悲願が達成できるよう、祈ってるよ」
そしてわがままを一つ言うなら……
もし、俺が"俺"を見つけられたら……
もし、今みたいにこうやって戻ってこれたら……
言わせてほしい。何も望まないから。
だから、さよならは言わない。
戻ってきたときに言うよ。
――「ただいま」と。
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