鋼の短編

□さよならは言わない
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   * *


「よう、大佐……あ、今は准将だっけ?」

「鋼の!?い、今まで何していたんだね!!半年間も音信不通で!!」

「そう怒るなよ。……今日は話があってきたんだ」



ジャラと音を鳴らして取り出されたモノに、准将――ロイは目を見開く。



「まさか……」

「うん。取り戻したよ。俺たちの悲願がやっと叶ったんだ」



そういって手袋をはずして出てくる白い手。

冷たい鋼の手じゃない。



「そうか……おめでとう」

「サンキュ」

「では……」

「うん。准将たちにはたくさん世話になった。でも、……俺は軍をやめるよ」

「そうか……」



たくさんの恩を忘れたわけじゃない。

何も返せてない。

それでも、もう軍にはいられない。

……いてはいけない。



「これは返すよ。……ありがとう、准将」

「……君が素直に礼を言うと気持ち悪いな」

「失礼な。俺だって必要な時はちゃんと言うさ」



ありがとうなんて、どんなに言っても足りない。

本をありがとう。

資料をありがとう。

励ましてくれてありがとう。

怒ってくれてありがとう。

道を示してくれてありがとう。


なにより……





―――好きな気持ちをありがとう。










「アルはさ、ウィンリィと一緒に暮らすらしいんだ」


そんでウィンリィと一緒に整備士になるらしい。

弟はすでにこの後のことを考えてる。

では俺は?

俺は何をする?


「俺さ……、旅に出ようと思うんだ」

「……なぜ?やっと終わっただろうに。……これからはゆっくりすべきじゃないのかい?」

「うん……そうかもしれないんだけど……アルにも言われたし」


でも、さ。

俺はアルもいて准将たちもいて……結構色々なものいっぱい持ってたんだ。

けど、"今の俺"はさ、何もないんだ。



准将を支えられるだけの地位もない。

後ろ盾もない。

……何より、"俺"自身がない状態だ。



けど、それは准将たちにとったらどうでもいいこと。

言う必要のないこと。

だから、言わない。



「自分を見つける旅をしようと思うんだ」



今まではアルのために動いていた。

俺のすべてはアルだった。

そして気づかされた。俺を作っていたのはアルだ。

でもアルがいなくなった今、俺を作ってるのは何か……。



――何もない。



何もないのだ。誰も知らないから、誰も気づいてないから……。



「俺は俺を見つけに行く。俺自身を作るために旅をしたいんだ」

「……そうか」



だから、当分会えない。

軍属じゃなくなるし……

もちろん、今にも溢れ出しそうなこの想いは誰にも見せず連れていく。

ここに置いといても困るだけだろうし、何より、何もない"俺"がこの人を支えられるとは思わない。


俺にあるのは錬金術だけ。

何も……助けることさえできない。




「じゃあ、行くな。今まで、本当にありがとな」

「気を付けて行っておいで」

「サンキュ。あんたが……あんたも早く悲願が達成できるよう、祈ってるよ」




そしてわがままを一つ言うなら……



もし、俺が"俺"を見つけられたら……



もし、今みたいにこうやって戻ってこれたら……



言わせてほしい。何も望まないから。



だから、さよならは言わない。



戻ってきたときに言うよ。







――「ただいま」と。








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