鋼の短編
□七夕
2ページ/3ページ
「……頭でも沸いた?」
少年――エドワードは目の前のおとなの正気を疑った。
だってそうだろ?
なんたって、目の前の大人は大佐という地位を持っていて、不本意ながら世の中の女性がいうかっこいい男……なのだから。
「ひどいね……」
そんなすべてを投げ出せるほどの恋ができるなんて、ほとんどないよ?
「あんたみたいに?」
皮肉交じりに言ってやれば、大人は苦虫をかみつぶしたような顔をした。
「……恋とかよくわかんねーけど、人それぞれだろ?」
そんなに気にすることじゃねぇーと思うけど?
フォローするわけじゃないが、そう言ってやれば今度は柔らかい笑みを浮かべた。
……最近、特にこんな顔を向けてくると思う。
まるで、愛おしいひとを見るみたいな……
「君は恋をするつもりはないのかい?」
「俺はアルと自分のことで手一杯。俺の腕は二本しかねぇーんだ。そんなにたくさん持てねぇーよ」
だから恋なんてしてる暇はねぇーの!!
「そうか……。君たちには七夕は関係なさそうだね」
「そんなことねぇーよ……」
ボソッと呟いた言葉は大人には届かなかったようだ。
それでいい。
じゃあ……と問い詰められても困るだけだ。
言うつもりはなかったのに、ポロッとこぼれ出たのだ。
それだけこの男に気を許してるということだろう。
気を引き締めなければ、無意識に余計なことも言ってしまうかもしれない。
・