鋼の短編

□花火
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   * *



一応、大佐に勧められたから。と、エドワードはアルを連れて祭りに来ていた。

最初はアルだけに行って来いと言ったのだが、アルフォンスが

「兄さんも一緒じゃなきゃ行かない」

と言ったため、エドも祭りに参加していた。




「すっごい人だな」

「そうだね。あちこちの街からも来てるらしいからね」



宿は奇跡的にいつもの場所が残っていて、なんとか取れた。




「兄さん、はぐれないでよ?こんだけ人がいると、見つけられないから」

「大丈夫だろ?はぐれても俺はお前を見つけるから」



エドの言葉に、アルはそうかもしれないと思った。

リゼンブールにいた頃も、エドはアルを見つけるのが上手かった。

どんなに人に飲み込まれても、こっそりと隠れても、エドは必ずアルを見つけた。

まるでエドにアルセンサーが付いてるかのように。




「兄さん、何か食べる?」

「いや、宿で食ってきたから特に食べたいとは思わねぇーな。それより、お前は何かしたいことはないか?」

「んー……あっ!」

「ん?」

「キャットハウスのお姉さんだ!」


図書館に新しい文献がないとき、アルがよく通っている猫屋だ。


「猫がいっぱいいる〜!」


嬉しそうに駆け出すアルに、エドは苦笑しながらついていく。

祭りに来ても猫か……。と思わないわけではないが、アルの嬉しそうな声にまぁいいかと思った。

アルが少しでも喜ぶのなら、何だってしてやりたいし、させてやりたい。


「かわいい〜」

「だな」

「あっ!花火の見物場所とらないと!!」


花火を見るにも、早めに場所取りをしておかないと、見れないと大佐が言っていた。

だが、エドもアルもイーストシティの祭りは初めてである。

一体どの場所が一番よく見えるかなんて知らない。


「まぁ、適当でいいんじゃね?」

「花火なら、屋台が出てるこの辺でもしっかりと見えるよ」

「本当ですか!」


キャットハウスのお姉さんの言葉に、アルは猫と一緒に見れる〜と嬉しそうに踊っていた。

だが、屋台のある場所は人も多いし、アルならともかく、小さい……もとい小柄なエドでは人の頭で隠れて見えないだろう。


「エドワード君なら、向こうの広場で見た方がしっかりと見えるよ」

「あっ、そっか!兄さん小さいから花火が人で隠れてしまうもんね」

「小さい言うな。……じゃあ、俺はそっちで見るよ。アルはここで見るだろ?」

「うん!」


猫に囲まれて幸せそうなアルに、エドは苦笑すると花火が終わってもここから離れないように言って広場に向かった。

周りから見ればアルが保護者に見られることが多い(実際、東方司令部ではそうみられているし、そういわれている)が、
実際はアルよりエドの方が保護者であることを知っているのは何人いるだろう。

早くに父親が出ていったせいか、母親を助けるため、アルに日常的なことを教えたのはエドワードだ。

年上ということもあり、エドワードはアルフォンスよりもしっかりしている。

ただ、なぜか国家錬金術師になってからは、ダメダメを演じているみたいだが……。


アルフォンスはそんな兄に、小さくため息をついた。

しっかりしている反面、自分のことは無頓着で二の次だ。

母を助けるため、アルをしっかりと育てるため。

常にだれかのために動いてきたエドワード。

そして、今もアルの身体を戻すために動いている。


「……もう少し我儘とか、自由にしてもいいのに……」


自分を押し殺してばかりの"兄"に、どうか支えてくれる人が現れることを祈る。




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