鋼の短編
□眠り姫
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眠い……
正直に言うと、本に集中できないほど眠たかった。
1週間だ。1週間丸々寝ていない。
そしてその前の1週間は2時間ほどしか寝ていない。
体力も限界だった。
それでも眠るのは怖かった。
あの日の夢を見るから。そして真っ暗な闇に閉じ込められるから。
これはアルにも話していない。
人ではない母親に責められ、消えていくアルに泣かれたあと、目の前が真っ暗になる。
……目の前だけじゃない。
自分がいる世界すべてが真っ暗な闇に包まれる。
そこには何もない。
光も、音も、人も。
いるのは自分だけ。
真っ暗で、自分の身体さえ見えない。
唯一見えるのは血で汚れた両手だけ。
それが何より恐ろしかった。
自分がどこにいるのか分からない。
誰もいない、一人っきり。
泣くことも、声を上げることも出来ず、立ち尽くす毎日。
いつしか、闇が怖くなった。
目を閉じれば必ず見える闇。悪夢。
「大佐はどうやって寝たんだろうな」
偉そうな態度の後見人。
「一度聞いてみようか」
そしたら、アルに心配をかけずに済むかもしれない。
エドはアルがいない部屋で窓の外を見ながら小さくため息をついた。
あまり頼りたくないが、アルのためには仕方ない。
そんなことを考えながら、今日も眠れない夜を過ごすのだった。
End
(2014年8月20日作成)